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第三章・9
一人の求人に、50枚以上もの履歴書が集まった激戦を潜り抜け、見事採用となった自慢話に、衛は手を叩いて喜んだ。
「がんばったな、陽。俺も嬉しいぞ」
「ま、僕の実力なら当然だけど?」
引っ越し初日の蕎麦を手繰りながら、二人でいろんな話をした。
もっぱら喋るのは陽の方で、衛は相槌を打つ事に甘んじていたが、ふと会話が途切れたところで立ち上がった。
「お茶を、淹れておいてくれ。ちょっと渡したいものがある」
なんだろう、と考えたが、陽は茶葉を急須に入れることにすぐ気を取られた。
これくらいでいいのかな? お茶なんて淹れたことないのにな。
ま、いいや。大は小を兼ねる、と言うし。
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