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第三章・12

 学校を出たし、年齢上では成人した。  就職も決まって、自分の力でお金を稼げるようになった。  すっかり大人になった気でいた。  衛と肩を並べたつもりでいた。  でも衛は、そんな僕をさらに包んでくれる。  その大きな腕で、心で僕をしっかり守ってくれる。  導いてくれる。 「ありがと、衛。じゃあこれは……借りておくね」 「受け取ってくれるか」  よかった、と微笑み、衛は安心したようにお茶を口にした。  その途端。 「うぐッ!」 「どうしたの!?」  ぐぅうう、と顔をしかめながら、衛は固く眼を閉じて声を絞り出した。 「苦い……ッ!」 「あ。お茶っ葉、入れすぎちゃったかな?」  若い時には、確かにいろんな経験が必要だ。  だがその前にまず、茶の淹れ方を覚えてもらわなくては!  衛は茶筒を引き寄せ、陽にちょうどいい茶葉の分量を教え始めた。

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