70 / 152

第四章・2

 そんな日の一限目の授業、9時を少し回った時の事だった。 (ん?)  ポケットに入れてある衛のスマホが震えた。  さすがに勤務中は、マナーモードにしてある。  しかし、実際に就業中に連絡がある事など初めてだ。 (陽に、何かあったか!?)  そう思うともう、居てもたってもいられない。  しかし生徒の手前、堂々と『電話してくる』とは言えようもない。 「すまないが、5分ほど自習してくれ」  ざわ、と軽く教室に波紋が拡がった。  生真面目な衛先生が、突然自習?  律儀な生徒は、何かあったんですか、などといらぬ心配までしてくる始末だ。 「すぐ戻る。その、何だ、トイレだ」  慌ただしくそう言い残して教室を早足で出てゆく衛の背中を、笑い声が押してきた。

ともだちにシェアしよう!