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第四章・2
そんな日の一限目の授業、9時を少し回った時の事だった。
(ん?)
ポケットに入れてある衛のスマホが震えた。
さすがに勤務中は、マナーモードにしてある。
しかし、実際に就業中に連絡がある事など初めてだ。
(陽に、何かあったか!?)
そう思うともう、居てもたってもいられない。
しかし生徒の手前、堂々と『電話してくる』とは言えようもない。
「すまないが、5分ほど自習してくれ」
ざわ、と軽く教室に波紋が拡がった。
生真面目な衛先生が、突然自習?
律儀な生徒は、何かあったんですか、などといらぬ心配までしてくる始末だ。
「すぐ戻る。その、何だ、トイレだ」
慌ただしくそう言い残して教室を早足で出てゆく衛の背中を、笑い声が押してきた。
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