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第四章・6

「実は今、私の大切な人が窮地に陥っている。さっき教室を出たのは、その連絡を聞くためだった」  おぉ!? と教室はざわめいた。  教師がプライベートを口にすることは、たまにある。  だがそれは鼻持ちならない我が子の自慢や、妻からもらう小遣いが少ないといった自虐的な笑いを取るための話などばかり。  初めて耳にする、ドラマチックなその内容に、生徒たちは皆どきりとした。 「その人は、衛先生のイイ人ですか!? パートナーですか!?」  クラスでも、ノリのいい生徒が冷やかし半分突っ込んでくる。  衛はそれにも真面目に、正直に答えた。 「いや、結婚はまだしていない。だが、命より大事な人だ。これからその人を、助けに行こうと思っている。そこで、皆にも協力してほしい。この1時間、静かに自習していてくれ。埋め合わせは、いつか必ずする。頼む」

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