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第五章・6
違う。
本当は、ありがとう、って言いたかったのに。
朝早く起きて、ごはん作ってくれてありがとう、って。
おいしいよ、って言いたいのに。
「もういいから、支度をしろ。遅刻するぞ」
「また偉そうに、大人のふりして。すぐ逃げるんだから!」
逃げる、だと?
陽と出会い、今に至るまで相当我慢強くなったつもりだった。
気まぐれで、すぐに態度が急変するお天気屋の猫と、気長に付き合う術を身につけたはずだった。
いつも、真っ直ぐに。
正面から向き合ってきたのに。
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