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第五章・17

「弟が世話になってすみませんね。上がって、お茶でも飲んで行きませんか」  陽は、衛の言葉に目を見開いた。 「まッ、衛!」  慌てる陽を素早く横目で見た若者は、いえいえと手を振り遠慮する。  ここで失礼します、と勝ち誇ったような眼で、衛をねめつけている。 「じゃあ、またね。ヒナちゃん」  すっかり戦意を喪失してしまった衛を前に、男は陽を抱き寄せ頬にキスをした。  そして、ひらりと手を一つだけ振るとあっという間に出て行った。 「もう! 馴れ馴れしいんだから、まったく!」  ぷうと膨れた陽は、一息ついた後で、そぅっと衛の方を見た。  怒ってるかな。  朝、ケンカしたまま出ちゃったし。  他の男なんか連れ込むな、とか叱られるだろうな。  そして、怖いと同時に、淡い期待を抱いていた。  妬いてるかな。  頬っぺたに、キスまでされちゃったし。  俺以外の男なんかに許すな、とか怒られるだろうな。

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