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第六章 痛む心

「やばい! こんな時間!」  アラームが止められている目覚まし時計が指す時刻に仰天し、陽は飛び起きた。 「も~! 何で起こしてくれなかったのさ、衛~!」  シャツの袖に腕を通しながら階段を駆け下りると、やたらのんびり構えた衛がビジネスバッグを片手に玄関から出るところだった。 「何だ、もう起きたのか」 「もう、って!? 完全に遅刻なんですけど!?」  八つ当たりしてくる陽を愉快に笑い、衛は腕を伸ばして寝癖の付いたままの柔らかな髪に触れてきた。 「おまえ、今日は休みだろう」  あ、と毛を逆立てていた猫は、途端におとなしくなった。  そういえばそうだった。  陽のシフト表も、衛の行事予定も、冷蔵庫にマグネットで貼ってある。  互いに相手の休日が解かるようにしているのだ。  そして、ほんの一昨日に、なかなか二人の休みが合わない、とぼやいた記憶が新しい。  髪をくしゃりと撫でてくれた衛の大きな掌に少し照れながら、陽は顔をあげた。  いってらっしゃい、と言うつもりだった。

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