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第六章・2
「あのな、陽」
「ん?」
先を越されてしまったが、陽は特段なんとも思わなかった。
心の隅に、まだ昨日のわだかまりがかすかに残ってはいたが、もうすっかりきれいに流して新しい朝を、新しい一日を始めるつもりだった。
「もし、ここを出たかったら、いつでも出ていいんだからな」
「え?」
「おまえがこの家を出たくないなら、俺が外へ出てもいい。家賃は俺の口座から落ちる事になっている。心配するな」
何、言ってんの。
「犬は人に付き猫は家に付く、と言うからなぁ」
笑えない、その冗談。
「じゃあ、行ってくる」
やだ。行っちゃダメだ。
行かないで、衛。ここに居てよ。
今日は学校休んで、僕の傍にずっと居て。
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