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第六章・3

 動けなくなってしまった陽がようやく言葉を話せたのは、すでにドアが閉まった後だった。 「衛」  そして、ただその一言だけしか話せなかった。  せっかくの休日でも、陽はもう二度寝する気にはなれなかった。  のろのろとキッチンへ向かうと、テーブルの上にはラップで包まれた皿がいくつか残されていた。  ちらし寿司に、サーモンの香り揚げ。  手毬麩のお吸い物に、冷蔵庫の中には季節のフルーツタルトが入っていた。  これはきっと、昨日の夕食に作られ用意されていた料理に違いない。  全部、僕の好きなものだ。  陽の目の前は、次第に滲んでいった。

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