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第3話
お風呂に入った後、リビングのソファーでうとうとしていたらお母さんにそろそろ寝なさいと声をかけられた。
僕は目を擦りながら生返事をして部屋に帰る。
ベッドに潜り込むとすぐに意識が遠退いていく。
「・・・・も・・・だね」
寝ていると何だが声が聞こえた気がしたけど、眠くて目を開けられなかった。
その後、いつもの誰かに追いかけられる夢をみた。
夢の中でも自分の息が上がっているのが分かる。
息がどんどん苦しくなってきて、夢の中なのに目の前が真っ白になった後すぐに映像が途切れたみたいに真っ暗になった。
はっと目を覚ますと、パジャマが汗でびっしょりとしている。
背中も汗のせいでパジャマが張り付いて気持ちが悪い。
パンツまで汗でぐっしょりとしている。
「うえー。きもちわるぅ」
ベッドから起き上がりバスルームに向かった。
足を前に出すと張り付いたパジャマが足に纏わりついてきて歩きにくい。
何とかバスルームに着いたので電気をつけて、脱いだ物を洗濯機に放り込んだ。
ズボンを脱いだ時に、ズボンが床に落ちた時に水を含んだびちゃりという音がした。
おもらしでもしたのかと思うほど重たくなったパジャマを洗濯機に入れる時に汗臭い匂いもする。
そのままシャワーを浴びてさっぱりしたら、着替えを持ってきていない事に気が付いた。
タオルを洗濯機に入れてから何も着ないまま部屋に戻る。
廊下を歩いている時に夢の事を思い出したら急に怖くなって小走りで部屋に入る。
「あれ?こんなのあったかなぁ?」
部屋の電気をつけて新しいパジャマを出す為にクローゼットの扉を開ける。
クローゼットの中に見たことのないカラフルな箱が置いてあったが、とりあえず着替えをすることにした。
箱は僕が届かない上の方に置いてあったので、勉強机とセットの椅子を持ってきて取ってみる事にする。
「よいしょっ!よいしょっ!」
椅子の上で背伸びをしてなんとか箱を取る。
箱を持ち上げたら思ったより重くて、落としそうになったがなんとか踏みとどまった。
ふぅと息を吐いて椅子から降りて机の上に箱を置いた。
「わぁ。すごー!!」
箱の蓋を開けると、中には新しいゲーム機とゲームのソフトが何個か入っていた。
思わず大きな声を出してしまって慌てて口を手で塞ぐ。
お父さんとお母さんからのプレゼントかもしれないけど誕生日でもなんでもないのにと不思議に思ったがそんなこと嬉しさが勝ってすぐにどうでもよくなった。
「うわー。やりたいなぁ…でもこんな時間だしなぁ…うーん」
ゲーム機は箱から出してある状態なのですぐにでも遊べる様になっていて僕は触りたくてウズウズしてしまう。
しかし、机の上にある時計を見るともう一度寝ないと昼間眠くなってしまう時間だった。
でも、最近帰ってきてから寝てるし大丈夫なのではないかと心の中の悪魔が囁く。
「朝になっちゃった…」
結局誘惑には勝てず朝までゲームをしてしまった。
あと10分、キリのいいところまでと時計を見ながらやっていたのに結局は朝までゲームをやめられなかったのだ。
朝ごはんは何事もなく食べたし、学校も頑張って行った。
「頭痛い…きもちわるい…」
学校から帰ってくる途中、ガンガンと頭が痛くなってきた。
マンションが見えてくる頃にはどんどん気持ち悪くもなってくる。
早く家に帰って寝ていた方がいいとは分かっているが、足取りが重い。
「みのりくんお帰り。顔色が悪いけどどうしたの?」
「おじさん…ちょっと」
「だ、大丈夫か!具合が悪いなら管理人室で横になっていなさい。立てる?」
「うん」
何とか学校から歩いてマンションのエントランスまで帰ってはきたけど、この時頭痛がピークに達していてしゃがみこんでしまったので慌てて管理人のおじさんが管理人室から出てきて、背中を擦ってくれた。
心配そうに声をかけてくれながら僕を立たせてくれて、管理人室の扉をあける。
外からでは分からなかったがカウンター席の後ろには扉があって簡単な部屋がついていた。
畳の部屋があって、その奥に扉が何個かある。
おじさんはそのうちの1つを開けると、布団を出してくれた。
「ここで横になってなさい。お父さんかお母さんが帰ってきたら伝えてあげるから」
「おじさんありがとう」
おじさんは足早に別の扉を開けると、そこはキッチンになっていて冷蔵庫を何やらゴソゴソとしているのが見える。
冷蔵庫から何か出してきて僕の側まで戻ってきた。
「これ飲んでいいから、少し飲んで横になってなさい」
おじさんが差し出してきたのはスポーツドリンクだった。
台所で開けてくれたのか、キャップはすぐに開けられたし一口飲んで横になったら寝不足だったからすぐに目蓋が重くなる。
またあの夢を見た。
でも、今日は夢の中では雨が降っている。
バシャバシャと雨が窓に当たる音と、苦しそうなうめき声が暗い廊下の奥から聞こえていた。
ズルズルと何かが這う音が此方に向かってくる。
僕は怖くなって音の方とは逆の方向に走った。
夢の中ではぁはぁとまた息があがってくるが、這う音がずっと追いかけてくるし水音もどんどん大きくなっている。
「え…うそ。行き止ま…んぐっ!!」
今日の夢は色々といつもと違った。
雨もさることながら、走っていると道が途絶えて高い壁がそびえたつ。
しかも口に何かが侵入してきた感覚の後に、息まで苦しくなってきた。
目を動かしてキョロキョロと周りを見渡すが何も口を覆うものはない。
「はっ!はぁ…はぁ…はぁ」
がばりと起き上がると、掛け布団が邪魔をして上手く起き上がれなかった。
暑かったのか汗をかいていた。
ここが何処か一瞬分からなくて周りを見渡すと、枕元のスポーツドリンクのペットボトルが目に入る。
そう言えば管理人のおじさんが部屋で寝かせてくらたんだったと胸を撫で下ろす。
おじさんに起きた事を言いに行こうと布団から立ち上がったが、扉が沢山あるのでどの扉だったか忘れてしまった。
「どれだろう…えーと?」
1つを開けてみると、キッチンだった。
ここじゃないと隣の扉を開けたら、お風呂場だった。
ここでもないとその隣の扉を開けようと手をかけたところで、中でヴヴヴヴヴとお父さんの携帯が鳴っている時のような音がしている。
お父さんはお医者さんなので、夜でも携帯電話を手放さないけれど家ではうるさくない様に音は鳴らない様にしているのでたまに机の上に置いてある時に電話がかかってくるとこの音がしていた。
おじさんの携帯電話かもしれない。
「んむっ!!ムーッ!!」
「え…」
折角だから持っていって上げようと思って扉を開けた。
すると、中には人が居た様でパチリを目が合った。
そこはトイレだったみたいで、便器に僕より少しお兄さんかなと思うような男の子が口許が丸いボールで塞がれていて、手と足は左右で各々ひとまとめにされて座っている。
しかもヴヴヴヴヴという音はその子のお尻に刺さった棒からしていた。
僕と目が合った事で、その子は胸を反らしてタンクに頭が当たったごちんと言う音の後にぶしゅぶしゅとちんちんから液体が飛び散り床や壁を汚している。
僕はその光景にびっくりしすぎて身動きがとれない。
「あーあ。見られちゃった…でも、みのりくんにはまだ早いかなあ」
後ろからおじさんの声が聞こえてきて、びくりと肩が跳ねた。
振り返る前に目の前が何かで覆われる。
今から何をされるのか怖くて足が勝手に震えてきた。
「あーあ。2人ともお漏らししちゃって悪い子だなぁ。みのりくんの分のお仕置きは今日はこのお兄ちゃんに変わりにしてもらうからみのりくんは何も見てないよ?」
「ご、ごめ…ご…」
足に伝う温かい液体で僕がお漏らししてしまったと泣きそうになる。
謝ろうとするが言葉が上手く出てこないのに、おじさんは優しく僕に語りかけてくるがそれが余計に怖い。
“何も見てない”という言葉の後に意識が飛んだ。
高いところから落ちるような浮遊感に身体が包まれる。
「みのりくん!みのりくん!」
「え…?」
「お母さんが来たよ?」
肩を揺らされ目が覚めた。
おじさんが指差した方の扉が開いていて、管理人室の小窓の前にお母さんが立っている。
僕は布団から起き上がると慌てて靴も履かずにお母さんの元へ走っていく。
お母さんのお腹へぎゅっと抱きつくと、やっとほっと息が漏れた。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえいえ。具合が良くなってよかったです。何かお困りでしたら何でも言ってくださいね」
「ありがとうございます。ほら、みのりもお礼を言いなさい」
「あ、ありがとぅ…」
お母さんに押し出されておじさんの前に立たさせられた。
夢の事があって口ごもるが、お母さんが肩を手で包んでくれていたのでなんとかお礼を言えた。
「さぁ。靴を履いて、バッグも持って」
「うん。お母さん…ぼくトイレしたいから早く帰ろう?」
「えっ!うそ…もぅ!!」
「折角ですからトイレくらいお貸ししますよ」
「そんな管理人さん。悪いですよ…」
「いえいえいいんですよ。ほらみのりくんこっちだよ」
「お言葉に甘えて借りてきなさい。本当に何から何までありがとうございます」
お母さんにこっそり言ったつもりだったのに、お母さんが慌て出した事でおじさんがにこにこと扉を指差す。
お母さんに促され、おずおずとおじさんが指差した扉に手を掛ける。
またあの男の子が居たらどうしようとドキドキしてしまう。
意を決して扉を開けた。
思わず目を瞑ってしまっていたのか、そっと目を開けても普通のトイレがあるだけだった。
振り返るとお母さんが早くしなさいと目で訴えかけてくる。
トイレの扉を閉めて壁を見るが汚れた形跡もない。
あれも夢の続きだったのかなと首を捻る。
膝までおろしたズボンもパンツも朝自分が選んだ物だった。
「じゃあ帰るわよ。本当にありがとうございました」
「また遊びに来てね?」
「う、うん…」
靴を履いて、鞄はお母さんに持って貰った。
にこにこと笑う管理人さんにまた遊びに来てと誘われたが、あんな変な夢を見たからか気まずくて軽く返事するのが精一杯だった。
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