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第3話
「……く、そっ……」
挿入によって、切なげに寄せられた眉間の皺が減るのを待つ。そのまま突き上げたい衝動に奥歯を噛みしめて阻む。
代わりに、せんべい布団を握りしめている朝倉の白くなった手を引き寄せる。決して細くはない、むしろ仕事柄荒れてタコと豆だらけの、リング状に日焼けの残る指。形を確かめるように食む。それにさえ、ちいさく漏れる声。
爪の先から指の股にかけて舌を這わせ、手のひらに口づけを。その間も視線は逸らさず射貫いたままに、顔どころか頭も上半身も朱に染めていく朝倉をじっくりと楽しむ。
「……っば、ぁ……か……」
掠れた声と潤んだ視線では、威厳などありはしない。
朝倉の微かな動きによって流れる首のチェーン。通された指輪は鈍い光を放つ。
元旦那の送った輪っかが、トキの送った鎖に通され、朝倉と共に踊る。
「ガキ、が……、いっちょ前に、遠慮してんじゃ……っぁあ!」
望み通り奥を探れば、搾り取られそうなほど。
胸のシコリを弾くと、跳ね上がった顎が左右に揺れる。
「ゃ、ん……っあ、ぅあぁ……こ、んな、おくぅ知らなぁ……」
普段は深い黒い瞳が、水分を多く含んでキラキラと光る。無意識だろう誘惑に、舐め上げる口角。
喘ぐ口唇を塞いで、抉ったことによる悲鳴は逃げ場を失う。
甘い口腔内を荒らし、互いに引いた銀糸に再び噛みつく。ぽってりと腫れた唇に煽られさらに唇を重ねる。
「あ、あ、あっ、っは、んン、……と、きぃ……イッ!」
うなじを掬えばダイレクトな感覚に跳ねる身体。たどり着いた耳朶 をしばらく弄 ぶ。
「あんた、耳も弱いよな……」
「……ぁ、あぁぁ……」
歯を立てながら低く潜めれば、力なくもがく肢体。
重ったるい音を奏でる、ねとつく下肢。
薄く開いたまま嬌声を上げ続ける唇。
捩 る腰を引き寄せて、緩急をつけながら内部を探るようにゆっくりと回す。
「……ぅ、あ……っイッ!」
刻まれるシーツの深いしわ。
突き出される紅く腫れた胸元に甘噛みをして舐め上げ、震える指で髪をかき混ぜられる。まるで強請 るように。
「……あ、……あ、あ……」
搾り取られそうになるのを振り切り、膝立ちのまま最奥を抉る。縋る指先を無視して、仰け反る身体を力任せに引き寄せ。
「あァー……、あぁ、っぁ、ぁー……」
くすぐる下生え。その感触にすら、そそられる。
猥雑 に蠢き、爛 れる熱。
意味を成さない高い声に、混じるすすり泣き。
「ホント、最高」
「っひ、ぃィ……ッ!」
しとどに濡れそぼっている裏筋をくすぐる。
波打つ筋肉質な腹に手をやり、外からも強く存在を刻みつける。
「……ゃあ、や、めぇ……ぁ」
自らの唾液に噎 せながら、助けを求めるのは苛んでいる元凶であるトキへ。
いつの間にか吐き出された白濁は、朝倉の腹を汚している。
どれを取ってもたまらない。
とても二十離れている男へ抱く思いではないと頭の片隅によぎるが、それを上回るいとおしさに息が詰まる。この一見勇ましくも、もろい男が。
「……く、ぅ……ッ!」
荒い息で、欲望のまま内部に塗り込む。虚ろな目で微かに声を上げる男に、醸 し出される危うさ。
喉仏に散った体液に舌を這わせて、同時に刻む自分のシルシ。視界に映る、鈍く光るリングにリップ音を聴かせて牽制 しつつ。
「……ト、キぃ……んぅ……」
薄く開いて甘えた声に誘われる。
臆病で傷つきやすいこの男を見ているのは、自分だ。
時折ヒクつく指を、掬 って絡める。
この大きくも、迷子のような手を引くのも、自分だけ。
したたる汗にすら肌を振るわす姿に、落ち着いてきたはずの心拍数を上げる。
「見ててやる、ずっと」
あんただけを。
瞬きと共に目尻からこめかみに伝う滴を吸い、ヒクヒクとしゃくり上げて戻ってこられない朝倉を宥める。
眼下に映る、締まった身体。息を切らせ、汗を散らし、自分が追い上げた。盛大に逝 った上下する腹に手のひらを沿わせ、気ままに精液を塗り広げていく。
自分の色にする。
中からも外からも男を汚す。倒錯的だ。
未だ見え隠れする、元旦那に仕込まれたらしい面影。それにイチイチ妬いていても詮無 いことは承知しているが、楽しくないことは事実。さらにトキの気持ちを慮 っているらしい朝倉の手前、上手く線引きをしなければいけないが感情が難しくもする。
「……ん、やめぇ……」
途切れ途切れの唸りに視線をやれば、再び顔を赤く染める男に出会う。朝倉の腹から胸元に広げた体液は少しの乾きを伴い、無意識に弄っていた乳首を震わせていた。
「も、俺は、おまえみたいに、若く、な……んぁアッ!」
制止を振り切り、奥を抉れば驚くほど猥雑にトキを扱く。
せめてインターバルを挟めというのだろうが、生憎と十代の性欲はそうそう収まらない。それは朝倉も何度も経験として知っているだろうに。
「ん、ぁ、んン……頼む……」
つないだままの手に頬を寄せ、涙ながらに懇願 される。
「……あんた、それ解ってやってんのか?」
「ぅ、え……まっ、……あッ!」
焦った声音にも甘い響きが増す。賢くも愚かな男が快感の渦に溺れていく様を、突き上げながら見届ける。たぶん元旦那もあえて指摘しなかったのだろうと、容易に想像できて口の中が苦くなる。
「……あ、あ、あぁぁ……」
どろどろに溶けて蠕動 する内部を殊更ゆっくりと攪拌する。
「……っひ、」
トキの動きに合わせ動く、力を失った朝倉の幹に指を這わせる。裏筋を沿い亀頭の先端から滲む汁をかき分けて水音を響かせる。
「ぃ、イク……い、くぅ……ぃって、いぃ?」
前後不覚になると、どうやら昔の男に抱かれている錯覚に陥るのかだいぶ幼くなる。引きつった呼吸で喘ぎ、放出の許しを得ようと拙く吐息を零す。トキは言葉による許可制を課したことはないのに。
自身で屹立をあやそうと持って行く手を阻止し、あえて目前に迫った放埒を先延ばしにする。トキに押さえられ身体の下から抜け出せない腕は、力なくシーツのシワを増やすのみ。
「あんたを、抱いてるのは、誰だ?」
鼻先で問いかけながら、腰を緩めずに責め立てる。
振り絞られる肢体。
再び達するだろう、このままいけば。
「ぁん、あ、ん、ぁあー……あ、」
止んだ律動に、漏れるむずがる声。
搾り取ろうと扱く内部に奥歯を噛みしめて耐えているとは、朝倉は気づきもしないだろう。自ら内を摩りつけようと捩り立てる腰も押さえつける。
やわやわと尻の肉を揉み、しげしげと眺める。あわいにズッポリと自分の逸物が押し込まれているのが、大変卑猥だ。
額に浮かぶ汗を拭ってやれば、ふわりと瞼が上がる。普段はすべてを深い色に隠す瞳は、今は雄弁に感情を語る。
「……な、で」
短く疑問を投げかけ眉が下がる。無言のトキに困惑しつつ、しばらく彷徨わせた視線は合点がいったのか目の前の自分に戻される。
「……ぁ、と、キ……トキぃ……」
さきほど解放した腕は、自らの屹立ではなくトキに伸ばされる。角度が変わり、抉られた悲鳴さえ心地よい。
ねっとりと唇を合わせ、逃げる舌を追い詰め、甘噛みを施す。
「上出来」
吐息を吹き込むように潜めた声に、跳ねる肌。
舌を噛みそうなほど揺さぶれば、小気味よい嬌声が迸る。
「ッあぁー、あー、あー……ッ!」
トキを目一杯に食んでいる後孔をくすぐって、さらなる締め付けを促す。
「ひ……ぃ、っぁ……」
もがくこともできず極めた身体は、弛緩と緊張を繰り返す。先ほど射精 した精液を巻き込みつつ、最奥にぐりぐりと摩りつける。
続く絶頂に、朝倉は声も出せない。
今度こそ、二人で快楽に沈んだ。
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