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What Are You Doing New Year's Eve?/フランク・レッサー
『ーーーー新年の前日は何をしているの?』
フランク・レッサー/What Are You Doing New Year's Eve?
『あ、ハジメ?帰りに食パン買ってきて』
バーでのバイトが終わって、モッズコートを羽織って丁度外に出た時、ユウジから電話がかかってきた。
辺りはもう真っ暗だ。
じっとしてると寒さが身体に染み込んでいって、勝手にぶるっと震える。歩きながら話すことにした。
吐き出す息でスマホの画面が曇る。
「で、何買ってこればいいんだよ」
『朝飯の食パン買ってきて。取り敢えずそれだけでいいや。買い出し行くし』
「ん。わかった。じゃ」
スマホの通話を切って、コートのポケットに入れた。
コンビニって駅前だったよな。あんまりあの辺うろつきたくねえんだけど。変態がうろついてるから。
夜の公園を横切って、コンビニで無事買い物を済ませた。よし、今日はいねえみたいだな。
そう思ってたら油断した。コンビニのレジ袋をぶら下げて公園の中を足早に突っ切ってたら
「お兄さん何してんの」
って後ろから声掛けられた。出た。
「なんつってな」なんて言ってたけど声ですぐ分かった。ジョンだ。
振り向いたらやっぱり警察官の制服を着たイケメンが自転車から降りるところだった。
無視して歩いていったけど自転車を引きながら付いてくる。
「よっ。なにしてんの」
「買い物」
「今から?」
「もう帰る」
「ふぅん。あ、お前さ、飲み会とかでヘマすんなよ。忘年会だの新年会だので酔っ払いが湧きでて交番のお巡りさんはめちゃくちゃ忙しいんだぞ。
俺の仕事増やしてくれんなよ」
「ん」
素っ気ない返事に業をにやしたのか、俺の顔を覗き込んでくる。
「・・・今度いつ会える?」
傾けた顔の中の、女みてえな目が艶っぽくたわむ。
「気が向いたらな」
手をひらひらしてあしらう。てかしつこいヤツだな。通報してやろうかな、この変態警察官。
「いつまで着いてくるんだよ」
ジョンの方を見ると、俺より一歩下がったとこで立ち止まっていた。
それから
「もうちょい左に行って」
と訳の分からないことをいいながらその方向を指差す。公園の藤棚の下あたりだ。行ってみたけど何もない。
「どういうつもり」
振り返る前に、後ろから抱き締められた。
「キスしていい?」
耳元でエロい声が響いて、答えない内に顎を掴んで唇を奪われた。
がっつり身体を押さえられて、逃げられない。
首を後ろにねじるようにキスされてるし、逃れようともがくと酸欠になってきて、我慢できずに口を開けた。すぐ舌が入ってきて中を蹂躙される。
やっと解放された時には糸が引いていた。
「なにすんだコラ」
口を拭いながら睨んでやったけど、ジョンは
「ちょっとスッキリした」
ってめちゃくちゃサッパリした顔してた。
「これでしばらくはオカズに困らないかな」
「この変態。なに考えてんだこんなとこで」
「大丈夫大丈夫。ここカメラの死角だから」
「最悪だなお前」
ジョンは全然気にしてなくて、むしろ「シたくなっちゃった?」と妖艶に笑いながらセクハラかましてきた。
「今は仕事中だからまた今度な」
ってどっかで聞いたようなセリフをはいて、自転車に乗ってさっさと走り去っていった。
なんで俺が袖にされた感じになってんだよ。普通に痴漢じゃねえか。最悪。
年々色気と変態度がパワーアップしてる気がする。その内捕まってしまえ。
ジョンに悪態を吐きながら帰路について、マンションの扉を開けると
「遅い」
ってユウジに文句言われた。
「変態に捕まってた」
「は?遂に捕まるようなことしたのか?」
「遂にってなんだよ。・・・まあいいや。ん」
食パンを渡すと、ありがとな、と受け取った。
今日は演らねえの、って言いかけて、ピアノが壊れてんのを思い出した。
「ユウジ、ギターは?」
「また今度な。今日はもう遅いし」
こっちもお預けを食らった。
アプリで相手を探しても、やっぱりこの時期は厳しくて来年まで無理そうだった。
アレか、風俗に手を出すか?でもそうしたらピアノを買う金が無くなるな。
結局我慢するしかなくて、本当に腹が立つけど、ジョンのアカウントにメッセージを返したのだった。
end
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