2 / 3

2

目の前に差し出された左右の手に握られたものを交互に見て眉間に皺が刻まれたのを目にし、思わず笑う。 「どういうことだよ?」 「出来なかったから『これ』なんだって」 「はあ?!だったらその時点で連絡し「取り敢えず持って」」 騒ぐ相手の掌に左手に持っていた食パンを置くと口を開けたまま固まるそいつ。そして右手に持っているもので食パンに文字を書いていく。甘い香りを放つそれは中々に扱い辛く奇怪な文字を垂らしていき。 何とか書き終えた頃にはコンクリートの床に幾つもの甘いシミが落ちていた。 「でーきた!ほら、食えよ」 「お、おう………………」 返事したまま食パンを凝視するそいつを無視して自分の食パンには適当に線を引いて齧り付く。 半分ほど食べ進めた時、漸く顔を上げたかと思えば頬を染め見たかった笑顔を向けてくれた。 「…っと、ありがとな……ひ、陽紅…」 「別に?本当は白で書きたかったんだけどなあ」 「いや、こっちでも十分…その、嬉し、い……」 滅多に言わない素直な気持ちと呼ばれた名前を耳にし、頰に火が灯る。その火の熱は目の前で頬張るそいつと同じ色に染めていく。 普段堅物なくせに、こう言う時だけ素直なのは狡いと思う……が、可愛いとも思うから困る。どけだけ厳つい仏頂面だったとしても俺にとってはヒロインだし、いつまでも守ってやりたいと思う。 なんて思っていれば音を鳴らして合掌し、食事が終わったことを告げてくる。 「ん、ごちそーさま」 「おー……でさ、デザートもあんだけど食う?つか俺が食う」 「おお、ありが…って、はあ?!おいっ……!!」 言い終わる前に両肩を掴み体重をかけて押し倒しにかかる。しかしそれは奴が咄嗟についた手に邪魔をされ中途半端な体制で止められてしまい更に体重をかけるが20センチ程違う奴との力の差は歴然で。 これ以上力では勝てないならば言葉で迫るしかない。そしてこの手段に弱いことも知っている。 「俺さあ…白がよかったっつったじゃん?」 「お、おう……いやだからってお前、こんなっ…!」 「だから『此処』なんだろうが…ホワイトデーだし?白でデコってもいいよな?」 「はあ?!いいわけねぇだ「ね、いいよね?萌南…?」」 リップ音を立てて目元にキスを送ると何か言いたげではあったが素直に寝転んでくれて。捲れたシャツからちらりと覗く綺麗に割れた腹筋にそろりと指を這わせれば冷たさか、それとも別の感覚に身を震わせ見上げてくる。その表情が堪らなく、頰に灯っていた火は下半身へと飛び火し熱は質量を増していく。そしてそれは布を通して伝わり奥をじわりと解していき。 「……っあんま汚すな、よ…」 「大丈夫だって…………デコんのは中だけだから」 宣言通り白でデコレーションを施されたヒロインの目には満足げなヒーローを赤く照らす夕陽が見えた。

ともだちにシェアしよう!