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2、来訪者
そもそも何で男に欲情したのが、自分でも分からない。ただ、ジッと彼に見られていたから、からかってやろうとしただけなのに。
耳朶を少し触ったら、分かりやすいほど身体が震えていた。何度も触ってるうちに彼は拳を握っていた。こんな格好で触られたら、反応するに決まってる。
(面白いな)
自分にSっ気があるのは重々分かっている。だからこそもっとやってみたいと思った。彼はこの行為が、早く終わって欲しいと思ってるだろう。ガーゼで顔が隠れてるから、助かったとも思ってるだろうけど…
あえてガーゼを外して、彼の顔を覗き込んだ。案の定、真っ赤になっていた。そしてうっすらと目尻が濡れていた。
(そんなに感じる…?)
たがが耳朶と首筋を触ってただけだ。それなのにそんなに感じるなんて。そのとき、確かにゾクっとした。
(…この先も見てみたい)
驚いた顔をしている彼に率直に聞いてみた。
「気持ちいいとこ、ありますか?」
***
小山と通話して数分後。誠の部屋のチャイムが鳴った。どこまで正確に個人情報を盗みやがったんだよ、と誠は毒づきながら玄関のドアを開けた。
「こんばんは」
今朝、知ったばかりの銀髪の男がそこに立っていた。これから彼とセックスするのだ。改めて気づいて、誠は顔が熱くなる。
「…入れてくれる?」
立ちっぱなしで待っていた小山にそう言われて、誠は慌てて部屋の中に誘った。部屋に入りながら、誠に気づかれないように小山は笑う。
ソファーに座るように促して誠は台所へ。
「飯食ったの?」
そう聞かれた小山はキョトンとしている。
「仕事帰りなんだろ。飯は」
改めて誠が聞くと、小山が答えた。
「夜は、いつも食べないから」
「はぁ?よく体持つな」
「朝、ガッツリ食べるから大丈夫。コーヒーだけ、貰えたら嬉しい」
そんなだから華奢なんだな、と誠はぶつぶつ言う。ケトルで湯を沸かしながら、コーヒーの準備をする。湯が沸くまでの時間、二人は無言だった。
(気まずいな)
そう誠が思ってると、小山が台所に来た。
「白河さん」
「まだ沸いてねぇよ、あっちで待っとけ」
背後にいる小山に背中越しに声をかける。すると、後ろから小山に抱きつかれた。
「な…、おい!」
「あんた、今から俺たち何するか分かってる?」
耳元で囁かれて、誠はゾクリとした。
「なのにさぁ、飯がどうとか。随分余裕だね」
「…っ」
息を吹きかけられて、ビクッと身体が揺れる。シュンシュンとケトルから湯が沸く音が聞こえ始めた。小山が誠の首筋を舐めて、そのまま耳朶を齧る。誠の身体は硬直している。
「コーヒーは、あといただくからさ」
小山の手が、スウェットパンツの上から反応しかけている誠のそれに触れた。
誠が慌てて払い除けようとするが、逆の手で止められる。
(まずいこのままじゃ、また…)
「と、とりあえずシャワー!」
思いがけず大声を出した誠。その声に小山の手が止まり、プッと吹き出した。手をほどかれて誠が一息ついてると、小山はまだ笑っている。その笑い顔が少しあどけない少年のようで、誠は拍子抜けした。
小山が先にシャワーを使い、その間誠はソファーで携帯をつついていた。画面にはニュースが写っているものの、内容はまったく見ていない。部屋に響くシャワーの音。
(何やってんだろ、俺)
こんな時間に、恋人でもない男と。明日も休みで助かった。
その後、誠がシャワーを終えて、リビングに戻ると自分のスウェットを着てソファーに座る小山が顔を上げた。そしてソファーの空いているところをポンポンと叩いた。こっちに来い、ということだろう。お前の家じゃないんだぞと言いながら隣に座る誠。
「素直に言うこと、聞いてくれるよね」
小山が微笑する。さっきの件から幾分、小山の顔が柔らかくなったようだ。誠はムッとしながら小山を見た。小憎い口を叩くがその顔はどうしても誠の好みの顔だ。見れば見るほどゾクリとする。
「白河さん、耳弱いんでしょ」
耳朶を舐められた誠は、顔を赤らめる。美容室や台所では中途半端に触られたが、今からはもう止める術がない。こっちから攻めてやる、と意気込んでいた誠だったが、小山の顔を見るともう動けなくなる。首筋を這う舌がまるで生き物のようだ。そして小山は遠慮なく伸ばした手で誠のそれを直接掴んだ。
「…!ちょっと、えらいいきなり…」
「なんで。もう反応してるし、早く気持ちよくなりたいんでしょ」
「いや、そうだけ…ど…っ」
掴んだ手をゆっくりと上下に扱くと、誠の身体が火照る。他人に触られるなんて、何ヶ月ぶりだろう…と誠は段々と息を切らせながら考えた。
「は…っ…」
眉を潜める誠を見ながら、小山はさらに速く扱いて、耳朶を愛撫していく。弱いところを攻められ、誠は身を捩る。
「気持ちいい?」
「う…あ…」
だんだんと余裕がなくなってきた誠は、小山の腕に爪を立てる。顔はもう蕩けそうに真っ赤だ。
「そろそろ、なの?イキそう?」
「イキそ…」
その時、小山がパッと手を離した。
「…な、 お前…っ」
寸止めを食らわされて、誠は非難の声を上げた。
「このままだと、汚れるから」
そう言うと、下着ごと脱がして誠の下半身をむき出しにした。そして今にも爆発してしまいそうな誠のそれを口に含んだ。
「〜〜!や、やあっ!」
突然のことに誠は思わず、大きな声を出してしまった。小山は気にせず、更に舐めようとした瞬間。
「イクッ!!」
宣言して、誠は身体を思い切り仰け反らして、白濁したそれを放った。その先には小山の端正な顔があり、べっとりと受け止めてしまった。
「あ…あああ、ごめ…!」
そう言いながらも綺麗な顔を自分のもので汚してしまったことに、少し興奮していた。
(変態か、俺)
乱れていた息がようやく落ち着いてきた頃に、小山が顔を近づけて誠にこう言ってきた。
「ねぇ、入れていい?」
自分のモノがついたままの小山を、さすがにまっすぐ見れない。誠は目を背けた。ベッドの下に置いていたボックスティッシュを渡す。
「お前せめて顔、拭けよ!あと、慣らさないと…」
「なにを慣らすの」
渡されたティッシュで顔についたものを拭き取りながら、小山がポツリと言う。誠は小山の方を見て、怪訝な顔をした。
「何ってそりゃ…分かるだろ」
「知らないよ。俺、男とするの初めてだし」
「はあ?!」
【2.来訪者 了】
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