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屋上にて─3─

 誰もいない屋上のフェンスに寄りかかりポケットからスマホを取り出す。メールの受信画面は『あの人』の名前で埋め尽くされている。  《今回も成績一位だったよ》  それだけを打ち込み送信ボタンを押す。返信はすぐに帰って来た。僕はスマホの電源ボタンを長押しすると、その場に座り込んだ。ぼんやりと初夏の澄んだ空を見上げる。  流れていく雲を見ていると、幼い頃お気に入りだったぬいぐるみを千切られた時のことを思い出す。父が買ってくれたクマのぬいぐるみは、腕から綿がぼろぼろと出て、僕は声を上げて泣いた。うるさいと怒鳴られても、感情に身を任せて泣き続けた。  あの頃みたいに大声で泣けたならどんなに気持ちが良いだろう。  そっと瞼を閉じる。  あのぬいぐるみは結局次の日にゴミ袋に詰め込まれて捨てられた。千切れた腕を直してあげることも出来なかった。そしていつからか、僕が『あの人』のぬいぐるみになっていった。  虚しさが全身を支配する。  もし、今、背中のフェンスが崩壊して屋上から転落してもきっと僕は冷静でいられるだろう。  もうすでに僕は堕ちているのだ。這い上がることの出来ない、真っ暗な穴の底に。  フェンスにもたれかかっている背中に力を入れた時、突然空から声が降って来た。 「お前、こんなところで何してるんだ?」

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