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屋上にて─8─
真嶋の笑った顔は太陽に似ている、と思った。眩しくて直視することが出来ない。
─友達第一号!
その言葉を心の中で反芻していると、まるで一足先に夏が来たかのように身体が熱くなる。僕が何も言えずに俯いていると真嶋の手が手首を掴んだ。
引っ込める隙も与えずに、僕の手のひらにどこからか取り出したマジックペンで何かを書き始める。くすぐったい、と手を振り払おうとした時、彼は満足そうに手首を離した。
「これ、俺のLIMEのID。登録しておいてね。じゃあ!」
真嶋は立ち上がり、ズボンに付いた埃を掃うと出入口に向かって駆けていく。
「ちょっと、待てよ!おい!」
僕の言葉を無視して彼は大きく手を振ると扉の向こうに姿を消した。ひとり取り残された僕はフェンスに背中を預け、手のひらに書かれたIDを見る。
「…油性ペンじゃないか、これ」
真嶋の文字をなぞる。何だか、胸がむずむずとして落ち着かない。
空を見上げる。脳裏には暗い過去ではなく、真嶋葵の笑顔が浮かんでいた。
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