12 / 18

始まりの予感─3─

 その言葉の意味を理解する前に、真嶋は友達に向かって「わりぃ、俺今日はパス」と言うと僕の手首を掴んだ。 「え、ちょっと」  ぐい、と強い力で引かれ、僕は真嶋に導かれるように廊下を歩き出す。 「お前、いいのかよ!友達と約束あったんだろ」 「別に。いつも通りハンバーガー食って帰るだけだったし。それに」  真嶋がくるりと振り返る。ふわりと踊る髪の隙間からピアスが光っているのが見えた。 「黒澤のこと、もっと知りたい」  頬が熱くなる。よくそんな恥ずかしいことをさらっと口に出来るな、と思いながら、顔が赤くなっているのがバレないよう俯いた。  急に僕の手首を掴んでいる彼の手を意識してしまって、自分のものではない体温に鼓動が速くなっていく。 「手」 「え?」 「手、離せよ。子どもじゃないし、ひとりで歩ける」  真嶋は、わりぃわりぃ、と笑ってするりと手を離した。だけど彼の手が離れてからも、手首に宿った熱はなかなか冷めなかった。

ともだちにシェアしよう!