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始まりの予感─5─
僕は別の本も見たいから、と言って真嶋から離れた。しかし、本の題名を視線でなぞってもどれも頭に入って来ない。頬に残る彼の熱ばかり気にしてしまう。
「なあ、黒澤ってやっぱりT大狙ってるの?」
僕の真似をするように本を眺めながら真嶋が訊いてくる。
「うん。高校は第一希望落ちちゃったから、大学受験は頑張らないと」
ふうん、と返事をして真嶋が適当に抜き取った本を捲る。
「でもさ、それってつまらなくね?俺ら、もう高校生活の半分が終わろうとしてるんだよ。高校生でいられるのは人生で一回だけだしさ、もっと青春っぽいことしたいとか思わないの?」
「それは…」
言葉に詰まった。僕だって時々勉強ばかりしている自分から逃げ出したくなる時がある。だけどそんなことをしたら『あの人』がどうなってしまうかわからない。
「まあ、黒澤がそれでいいって言うなら俺は何もしねえけど」
真嶋は本を棚に戻すと辺りをきょろきょろと見渡した。
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