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裕司と僕
「んっ……う……」
単調だけど肌を焼くような痛みがじくじくと続く。
時折、身体がはねる程の痛みが走り、ビクッと震えるたびに「動くな」と重い声に静かに叱責された。
8畳ほどの和室で、真ん中に敷かれた布団の上で、かれこれ数時間この苦痛に耐えている。
ぢっぢっと肌を嬲られる音を聞きながら、ギュッと拳を握りしめていると、静かに襖が開いて見知った男が入ってきた。
「おう。大分綺麗に咲いたな」
裕司は僕にそう言うと、僕が寝そべっている横に来て、胡坐をかいて座った。
「オッサン、どんな具合だ?」
「ああ、肌は悪くねェ。まだ若けぇしな。しかし、ちっせぇ背中だ、女彫ってるみてぇだよ」
僕の背に覆いかぶさって一心に針を打ち続けていた男が顔を上げる。
「そのちっせぇ背中が俺の半分背負ってんだ、いい仕上がりにしてやってくれよ」
「誰にもの言ってんだ、若造が。俺が彫るんだお前のモンより良くしてやるよ」
僕は背中に刺青を彫っていた。
僕がどうしてもと強請ったのだ。
最初は渋っていた裕司だったが、どうしても入れると言うならばと、自分が彫ってもらった彫師のところへ連れて来てくれた。
「おう、兄ちゃん、今日はここまでだ。風呂入ってガシガシ擦るんなよ」
「ありがとうございます」
僕は身体を起こすと、じくじくと痛む背中に触らないようにそうっとシャツを羽織った。
筋彫りの時はそんなでもなかったのだが、色を入れ始めてからは結構大変だ。
最近はタトゥとして手軽になった刺青だが、裕司が選んだ彫師は名前のある和彫りの彫師さんで、機械は一切使わず、針を何本も束ねたようなものでしっかり彫られている。
痛みも結構なものなのだが、その分、経年で滲むことも少ないし、色も良く美しく仕上がるらしい。
「兄ちゃんは色が白いから赤が映えるな。鳳凰に火炎は対になるには丁度良い」
僕は背中に炎のような赤い牡丹の花を背負う。
炎から再生する鳳凰を背負う裕司に合わせたものだ。
刺青を入れたがったのは僕だけど、かかる時間と値段を聞いてびっくりした。
『嫁入り道具だ、俺が一級品を背負わせてやる』
裕司はそう言って、費用も何もかも負担してくれたのだけど、僕は自分の力で入れたいからもう少し小さいのからと言ったら、そんな半端なことを言ってるなら辞めろと言われてしまったので覚悟を決めた。
ユウジも僕の背中を褒めてくれる。
自分ではまだ見ていないけれど、図案として出された絵は額に入れたいほど綺麗な物だった。
「出来上がりを早くみたい」
「今日で殆ど仕上がった。後は少し調整がいるが、次で仕上げだな」
「ありがとうございますっ!」
僕は素直に嬉しくて頭を下げた。
拉致の事件の後から入れ始めて半年、僕の腰から背中までの3分の2ほどを埋める刺青はやっと完成する。
「裕司、仕上がったからってすぐに背中付けて寝っ転がすんじゃねェぞ。落ち着くまでは後ろからだ」
もういい歳の彫師はにやにやと卑下た笑い顔で裕司に言う。
裕司も軽く目を眇めて「うるせぇ」と笑って見せる。
ガキっぽい話題で盛り上がる二人を眺めて仕方ないなぁと笑っていると、不意に耳元でユウジに囁かれた。
『志信は騎乗位が好きだもんなぁ』
「っ!?」
『帰ったら、期待しとけよ』
そう言ってむぎゅっと僕の尻を鷲掴みした。
ユウジがそう言うってことは、そう言う事……なんだろうな。
あの拉致事件から半年。
先日、僕を拉致した実行犯の組織とは手打ちが済んだ。
犯人たちがどうなったかは知らない。多分二度と会う事はない。
事件の後、犯人たちをどうしたいかと裕司に聞かれた。
僕は自分の手でけりをつけたいと思っていたけれど、それは裕司が嫌がったので「筋を通してもらえればそれでいい」とだけ答えた
それは実行犯の事だけじゃない。実行犯たちに僕を売った裕司の両親や、多分、僕の両親も含めてすべてに及ぶこと。
手打ちが済んだ時に、久しぶりに組長さんにお会いした。
組長の屋敷に呼ばれて、座敷で組長さんと裕司と僕の三人で顔を合わせた時に開口一番に言われた。
「犯人どもは全員一撃でのされてたって話だ。気の強い嫁さんをもらったな裕司」
その言葉に裕司は深々と頭を下げる。
「裕司ンとこの部屋住みどもはお前に世話になった奴も多い。これからもこいつの男を立ててやってくれ」
僕も同じように深く頭を下げた。
会話はこれだけで、組長さんはすぐに部屋を出て行ってしまったんだが、僕には何よりの言葉だった。
頭を下げたまま、顔も上げられず、ぼろぼろと涙をこぼす僕の背を裕司がぽんぽんと叩いてくれる。
「……ありがとう、裕司……」
「半分はお前の手柄だ。お前が耐えたから、親父も認めてくれたんだ」
裕司のその言葉に更に涙があふれ出す。
嬉しいだけじゃない。この現実には重みもしっかりある。
僕は自分の親すら切り捨てて、堅気ではない世界に足を踏み入れた。
後戻りはもうできない。それは僕が選んだこと。
でも、それ以上に、裕司が居れば僕は良かった。それ以上望むことはない。
裕司が居て、一緒に生きて行けることが僕には何よりだった。
「これから先、辛い思いさせることもあるだろうが、お前だけは絶対に離さねぇ。それだけは覚えておけ」
「……僕も、裕司が嫌だって言っても離れないよ……」
ぽんぽん。
裕司が僕の背を叩いてくれる。
手のひらが温かくて、それだけで涙がこぼれる。
この手を絶対に離さないようにしなくちゃ。
たとえ、何があっても。
地元も親も捨てて、温和な社会生活も捨てて、僕はヤクザの連れ添いになった。
背中に刺青を入れたのは、裕司と対になるため。
これだけ派手にいれたら、もう元に戻すこともなかったことにすることもできない。
「あ、ぁっ、ゆうじ……や、あっ」
ベッドの上、仰向けに寝転がる裕司の上に跨って、僕は息も絶え絶えに喘いでいる。
僕は下から剛直に貫かれ、裕司が腰を突き上げるたびに、下腹から体中にざわめきが走るような快感に嬲られている。
「も、無理ぃ、達かせて……おねが……ああっ、あっ」
「肌が火照ると花の色がより赤くなるな、綺麗だぞ、志信」
裕司に背を向けるようにして跨っているため、僕が快感に身を捩る度に裕司は満足そうに背を撫でる。
またその背を撫でられる刺激が、そわそわと僕を追い詰める。
「ゆうじ、も、やだ……ああ、あ、んっ、あ」
ぐちゅぐちゅと濡れた音が響き渡る。
たっぷりとローションを使われて、蕩けるまで弄られたそこは、とろとろに溶けて拒むこともできずに裕司のペニスを飲み込んでしまっている。
自分の体重と下からの突き上げで、より奥まで突かれて、快感と苦痛のギリギリのところを行ったり来たりしていた。
「ああ、んっ、んっ、あ、あ」
僕の前は紐で戒められ、僕の手はそれを解かぬようにしっかりと裕司に握られている。
もう喘ぎ声を堪えることもできず、だらしなく開いた唇の端から唾液がこぼれる。
それが胸を濡らすのすら、敏感に感じ取ってしまう。
「ひっ、ああっ、ぁんっ」
背後から手が回ってきて、敏感にとがった乳首を捏ねられた。
「志信……」
いつの間にか身体を起こした裕司に背後から抱きこまれる。
背中に強く触れないように、僕は身体を折りたたむ様に臥せると、お尻に咥え込んだものがぐりっとお腹の奥にあたった。
「にゃっ、やっ、ああぁ」
僕のペニスがびくんっと跳ね上がる。
根元を縛られて、ぱんぱんに腫れあがったものは、お腹の内側を突き上げられると僕の意志なんかお構いなしにびくびくと動く。
「ね、ゆうじ、も、もうだめ、達きたいっ、いきたいよぅ」
「だめだ、もう少し耐えろ」
クスクスと笑い声が背中から聞こえる。
指で乳首を捏ねられながら、僕は快感から逃れたくて身を捩る。
「こらっ」
身を捩ることで危うく抜けかけて、それを無理やり裕司に突き上げられると、ペチッとお尻を叩かれた。
「だって、ぇ……も、いきた……」
我慢できないと言うと、それを咎めるようにぐんっと下から突き上げられた。
手をついて身体を支えるのがやっとで、前の戒めを解く余裕がない。
「やあ、んっ、ゆうじ、ゆう、じ、あああっ……ゆうじ……」
あと少し、あと少しの刺激で行けそうなのを戒めでじらされて、僕は腰を振る様に身悶えてしまう。
「花が良い色になったな」
裕司はその様に満足したのか、満足そうに僕に言うと、乳首を捏ねていた手をするっと下に降ろし、僕の戒めを解いてくれた。
ゆっくりと僕を抱き起して、うなじに口づけてくる。
「さ、お前が達くところ、見せてもらおうか」
「え、あ、ええっ」
顔は見えないけど、裕司がニヤニヤ笑ってるのが目に見える。
「やだ、そんなの、やだよっ」
「出来ないんじゃ、俺も動かねぇ」
「えええっ」
「ほら、気持ちよくしてやるぞ?」
「あんっ」
クンッと軽く突き上げられるだけで、じわっと快感が走る。
『俺も見たいな』
不意に前から声が響いて、ハッと顔を上げると、ニヤニヤ笑ってるユウジがいる。
「無理……だよ……」
こんな胡坐をかいた裕司の胡座に足を広げて座ってるだけでもかなり恥ずかしいのに、後ろからも前からも裕司に見られるなんて!
『無理じゃないだろ』
「やってみせろよ」
こんな時ばっかり裕司まで優しくて甘い声で囁いてくる。
『ほら、こうやって……』
ユウジは僕の手を取ってあやつり、僕は自分のペニスを握らされてしまう。
「や、だぁ……あ」
「いい調子じゃねぇか」
裕司が耳元背囁き、再び腰を揺らしはじめる。
『志信はここが好きだよな』
僕の手ばかりか僕のペニスにまで触りはじめたユウジは、巧みに裏筋やカリを指の先で引っ掛けるようにして擦ってきた。
「やめっ、あ、ああっだめっ、ああん……あっ」
無理やり擦らされているのに先走りが溢れて、指の間からくちゅくちゅと濡れた音がする。
「そのまま可愛がってろよ、達かしてやるぜ」
裕司が激しく腰を使い始めるのに合わせて、ユウジが僕のものを咥えてきた。
「ひっ、あああっ、か、かんじすぎちゃうっ、だめ、だめぇっ」
裕司のものが僕の最奥を突いて、ユウジの舌先がぐりっと鈴口を擦った瞬間、体中が焼き切れるかと思う様な快感が走り抜けた。
「くっ、出すぞっ」
「あ、ああ、あああ、あ」
熱い飛沫がどくどくと注がれ、痛いくらい張りつめていたペニスは達った瞬間もわからないくらい強く吸われている。
僕はだらしなく喘ぎ声を溢して、裕司の胸にくったりと背を預けた。
『ごちそうさん』
僕の蜜を全て飲んでしまったユウジが、僕の口元をペロッと舐めて言う。
少し絡んだ舌が精液の苦みを感じる。
ユウジにキスされて、裕司に抱きしめられて、これ以上ないくらい幸せな気持ちのまま僕は気を失ってしまった。
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