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Ⅰ 初恋のつづき⑦
(広い)
何㎡ だ?
俺達の寝ているベッドの向こう。折れ曲がった角側のスペースから、ゼブラ柄のシーツが見えている。
キングサイズのベッドだ。
テレビも何台あるんだ?
洗面所のドア、どこだろう?
天井も高い。
シャンデリアのおしゃれな照明が薄い光を揺らしている。
高級ホテルのスイートかセミスイートに違いない。
こんな豪華な部屋に高校生が泊まって大丈夫なのだろうか。
まぁ、俺が保護者という事になるから入れたのだろうが。
「尋斗さん、キョロキョロしてる。この部屋、気に入りましたか?」
「あ、うん。まぁ……」
「まだキョロキョロしてる。大丈夫、心配しないでください。ラブホだから、お値打ちですよ」
なんだぁー、そっかー。
アハハハハ
アハハハハ
アハハ、ハハ?
「今なんっつた?」
「お値打ちです」
「そうじゃない。その前」
「この部屋、気に入りましたか?」
前に戻りすぎだ。
そうじゃなくって。
俺達のいる……
「この部屋」
「ラブホです♥」
………………
………………
「………………」
「………………」
なんでッ!!
どうしてーッ!!
「晴君!!」
どうして、君はッ
「尋斗さんが倒れてしまったので、タクシーを呼んで一番近いホテルに入りました」
「そそ、そうなんだ」
これは晴君の善意だ。
たまたま入った場所がラブホだっただけだ。
「出よう!」
ここは健全な俺達のいる場所じゃない。
………………あれ?
どうして俺は、天井を見上げているんだ。
(腕)
首元の腕が邪魔で起き上がれない。
肩をグッと押さえている。
もちろん、俺の腕じゃない。
「だめ」
吐息混じりの声が、耳のひだをくすぐった。
「尋斗さん、さっき倒れたのを忘れましたか」
声は優しいのに。
覆い被さる腕がビクともしない。
「疲れてるんですよ。また倒れたらどうするんですか?」
「だけどっ」
そうだ。
「オレンジジュース!」
間違えた。
「カフェオレ飲みに行こう」
「それは、また後で」
軽くあしらわれてしまった。
「それじゃあ、晴君の好きなおっきな苺のショートケーキ……プリンアラモードでも」
って……
俺の知ってるのは小3の晴君だ。高校生になっても好きなのだろうか?
「お誘い、嬉しいです。尋斗さんから誘惑してきて……」
チュッ
「えっ」
君の唇が、俺の唇に触れた。
「検温ですよ」
チュッ
唇が囀ずった。
「ちがう」
これはキスだ。
唇と唇を合わせる行為をキスというのだ。
「尋斗さん、顔が赤い。熱あるのかな?」
頬を包んだ手が少し冷たい。
「頬っぺたも熱いですね」
「晴君がっ」
「俺、なにかしましたか」
月色を帯びた双眼がふわりと揺れた。
「晴君!」
なにかは今してる。
君が、今!
頬を撫でる手を掴んだけれど。
「俺が信用できませんか」
瞳の月光を細めて見つめる視線に、息を飲んだ。
「尋斗さん、教えてください。俺は、信用できない人間ですか」
「……そんなこと言ってない」
「良かった」
月の光が、ほっと溜め息をついた。
「じゃあ俺は、合格ですね」
「なにが?」
「尋斗さんの夫に、です」
えええぇぇぇぇーッ
「晴君、その話はっ」
トクリ、と……
鼓動が揺らいだのは、君のキスのせいじゃない。
温もりが重なった。
小指と小指を絡めて、結んだ二人の指静かに……
唇が灯された。
心臓がが脈打つのは、君のキスのせいじゃない。
(君のキスのせいじゃないんだ)
「尋斗さん」
ドキンッ
伏せた睫毛の間から、月光色の眼差しが落ちた。
さっきまで口づけしていた唇が、吐息に熱を灯して囁いた。
「あなたは、俺の婚約者です」
小指を絡めた場所に落とされたキスが指輪みたいに、心音をキュンと締めつけた。
チュッ♥
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