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Ⅰ 初恋のつづき⑩

そんな事してもっ! 俺はαだ。 番の証にはならない。 この世界には二つの性がある。 一つは外見上の性器の違いにより区別する第一性・雌雄。 もう一つは、生殖能力により区別する第二性・α、β、Ωだ。 雄のαとβは放精能力を有し、Ωは受精能力を有している。 中でもαは稀少種で、生殖能力においても、身体能力・頭脳においてもβ・Ωを遥かに凌ぐ。政界・財界の重要人物は、ほぼ全てαだと言っても過言でない。 αは、世界の頂点に君臨し、支配する存在である。 世界は、αによって動いている。 しかし、世界を廻すαすら超える存在がこの世にはあるという。 『運命の番』 運命と運命によって結ばれたαとΩが出逢う時、二人は惹かれ合い、決してほどける事のない絆を紡ぐのだ。 運命の番は、生涯添い遂げる。 その証に、αはΩのうなじに痣を刻む。 口づけの赤い痣は、生涯消えないというけれど…… (この世界が作ったおとぎ話だ) 運命と運命が出逢う確率は稀有。 『運命の番』を見たものは、誰もいない。 夢物語だ。 なのに、どうして信じるのだろう? 否。 あり得ないから、信じられるのかも知れない。 人はどこかで、未知なるものを信じる事で自分という自我を保つ弱さをはらむ生き物だから。 αの遺伝子には、運命のΩを求める遺伝子情報が刻まれているんだ…… そんなふうに非科学的なものを、科学的に説明できればよいのだろうか。 例えそうだとしても。 俺は愛さない。 運命のΩを。 「あなたの愛したのが、αだったからですか」 「違う。三樹はただの友達だ」 「こんなふうにキスしたり……」 指でなぞった場所に、艶かしく唇が口角に触れた。 「……こんなふうに触れられたいとは思いませんでしたか?」 髪の毛をふわりと撫でた手が、不意に強固な力で後頭部を押さえる。 拒絶できない。 強引な口づけが歯列をこじ開け、舌を絡めとる。 「思…わない」 濡れた呼吸の隙間から、抵抗する声と一緒に襟元を掴んだ。 「じゃあ、父がしたい……って言ったら?」 鋭利な月明かりが鼓動を刺した。 「父があなたを抱きたい……と言ったら、あなたは拒むんですか?」 三樹が……… 俺を……… 「あり得ない」 「じゃあ、あなたは……」 濡れた唇が肌に痣を立てた。 さっき、噛まれた場所 花びらの散るうなじを、赤い舌がチロリと舐める。 「こんなふうに」 吐息が燃えるほど熱い。 「父に望まれて抱かれる事を想像もしなかったんですか」 口づけされたうなじの痕が熱い。 「………しない」 「嘘つき」 尋斗さん。 「今、少しだけ想像したくせに」 俺は、あなたが愛している人の息子です。 だから……… 「あなたをもう一度、愛してあげたい」 愛せられたら…… ねぇ、尋斗さん。 「俺と初恋のつづき、しませんか?」

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