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ナオちゃんの正体
少し離れた駐車場に着いてすぐ早足で歩いていき、月に届きそうなくらい高くそびえるマンションへと入っていく。
昔から変わらない赤毛で猫毛の髪を撫でながら何回もロックを外し、やっと辿り着いた部屋の前で深呼吸をした。
「やっと会えるね、ナオちゃん」
えくぼが浮かぶくらいに微笑んだ俺はドアを静かに開けて、忍び足で入る。
玄関で脱いだ革靴を揃え、そろそろと台所で向かっていくと、ほんのりカレーの匂いと油の暴れる音が聞こえてきた。
そして、ピンク色のエプロンを来た黒髪の人が上機嫌な鼻歌を歌いながら菜箸を動かす姿が見えてくる。
昨日リクエストした通りにエプロンの下は裸だから、背骨の線が真っ直ぐな上にくっきり見えるし、お尻は小さくて締まっているのがわかる……筋肉質が硬そうって思うだろうけど、揉むと綿あめのように柔らかくなるんだ
なんて考えながらナオちゃんの真後ろに立つ俺。
「ただいま……ナオちゃん」
俺は職場の時とは真逆の落ち着いた低く声で呼びかける。
「うぇぇ、あっ、え?」
びっくりしたのと焦ったのが一緒になった素っ頓狂な声を上げたナオちゃんが振り向いた。
「あの量をもう終わらせてきたん?」
困ったように言うナオちゃんは黒い前髪がゆるい七三分けで二重の垂れ目を潤ませて、まるでおやつをお預けにされている犬のような情けない顔をしていた。
それは2時間前に残業を言い渡した竹富課長と同一人物だとは誰も思わないだろう。
ナオちゃん……基、竹富奈緒志 が俺の恋人だ。
「ナオちゃんが店舗ごとにまとめてくれてたし、なにより早くナオちゃんに会いたかったから頑張ったんだよ?」
ジャケットを脱がせてくれるナオちゃんに俺は優しく言うと、顔を真っ赤にしながらも不満そうにするナオちゃん。
「でも、4時間ぐらい掛かる計算であの量にしたんやで? チーズケーキも冷やしたばっかやし、唐揚げも今揚げ始めたしやなぁ」
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