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#2-7
絶頂が過ぎても、当然ながらバイブは胎内で動き続けていて、慌ててリモコンを手繰りスイッチを切った。小さく響いていたモーター音が止まった部屋に、俺の荒い息遣いだけが残る。
力の抜けてしまった手でどうにか後孔の異物を引き抜くと、空洞になってしまったような感じがして、軽い身震いが襲った。
ーー足りない。
マジか。絶望に似た喪失感で、目の前が真っ暗になる。
前を触るだけの自慰で満足できなくなったのはもう何年も前のことだが、トコロテンまでしたのにまだ中が疼くなんてことは初めてだった。
浅いところで終わったせいかもしれない。奥まで入れてみようか。でも、それでも足りなかったら?
俺は抜いたばかりのバイブを握ったまま、どうにか疼きを紛らわそうと両脚を擦り合わせる。
善にしてもらわないと満足できない身体になってしまったのだとしたら、それを自覚するのは怖かった。
一人きりの寝室、照明は点いたまま。酔いが醒めたように妙に冴え冴えとした頭と、冷めるどころか熱を増すばかりの下肢。
ーーなんで帰ってこねえんだよ、善。
怒りを通り越して悲しくなってきた。
こんなことなら誰か他の男を引っ掛けていればよかった。出会いやセックス目的の野郎がわんさかいる店で飲んでいたというのに。
ルルちゃんなんて、まだ学生じゃないかというほど若い男とホテル街へ連れ立っていった。今ごろ得意のスローセックス真っ最中に違いない。くそくらえだ。
最悪だ、畜生。ヤりたい。
なんだかよくわからない感情が渦巻きだしたが、それも結局はヤりたい、に収束するのは明らかだった。
目頭が熱くなってくる。二十八にもなってセックスしたくて泣くなんて、あんまりにも情けなさが過ぎる。
じわりと視界が滲んで、手の甲でごしごし乱暴に拭った、その直後だった。
ガチャガチャと玄関に鍵を差して捻る音。続いてドアが開き、靴を引きずるような気怠げな足音が、俺の耳に届いた。
幻聴かと思った。ただいまぁ、とのんびりした声が響いて、やっと現実だと確信する。
脱力していたはずの身体が考えるより先に跳ね起きた。勢いがつきすぎて軽い立ち眩みのような状態になりながら、全裸のままベッドを降りる。
玄関から入ってリビングよりひとつ手前がこの寝室だ。ドアを開けると「わっ」と短い声があがって、まさに真ん前を通過しようとしていた善が目を丸くして俺を見た。
何か言わせるより早く、その腕を掴んで室内へと引きずりこむ。
羽織ったジャケットすらそのままの善をベッドへ押し倒して、その上に跨った。
「……びっくりしたぁ。どうしたの千亜貴、ひとりで遊んでたの?」
善は青い目をぱちくりさせながら言う。仄かに他人の香水の匂いが残っていた。いつもの善の甘い匂いと混じっているせいで、男物か女物かも曖昧だ。
他人の匂いをつけて帰ってくるのは約束違反だが、もはやそんなことには構っていられなかった。
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