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#2-8
八つ当たりのように唇を押しつけて舌先で強請ると、善は大して戸惑った様子もなく応えた。厚い舌が俺の咥内に入ってくる。ねっとり絡められて思考が溶ける。
「ん、っ……ふ……」
善とするまで、キスが気持ちいいとはあまり思ったことがなかった。
好きな相手として精神的な充足感を得ることはあっても、性的な快感に直接繋がるわけではない。あくまでスキンシップだったり、前戯の一環、ムード作り、そんな程度のものだと思っていた。
口の中にも性感帯があって、舌でなぞられたり吸われたりすると気持ちがよくて、それだけで勃つくらいには感じるし、甘ったるい声も漏れる。漫画やAVの中だけの話ではないのだと、初めて身を持って知った。
「……ん、千亜貴、これでしてたんだ?」
唇が離れると、善は笑い混じりに言った。ベッドの上に放置していたバイブをいつの間にか手にしている。
ローションまみれ、ゴムもつけっぱなしの、露骨に使用後のそれ。まじまじと眺められるとさすがに少し羞恥が湧いてくる。
「うっわ。結構エグいね」
スイッチを何度か押してその動きを確かめてから、善に跨った俺の下肢へと出し抜けに手を伸ばした。腰を抱き寄せるようにして腕を回し、後ろからバイブを挿入してくる。
「ひ、っ! ぃあ……っ」
容赦なく奥まで突っ込まれ、思わず身体が逃げを打つが、腰を固定されていてどうにもならなかった。最奥をこじ開けるようにされて全身がガクガク震え出す。
「あぁ……っあっ、や、あっ」
「これでメスイキしたいの? スイッチ入れてい?」
耳元で囁く声に、必死で首を横に振る。
「や、善、善のがいいっ、いれて……っ」
何もかも晒け出した格好で、縋りつきながら懇願する姿はさぞ滑稽だろう。そんなこともどうでもいいくらい、早く抱いてほしくてたまらなかった。
善が鼻で笑う。俺の中に入れたものを手遊びのようにぐりぐり動かしながら、
「こんな太いオモチャ入れてドロドロにしといてさぁ、まだ欲しいの? 頭ン中ちんぽのことしかねえのかよ」
嘲笑の言葉にもどうしようもなく興奮した。だってずっと待っていたのだ。
気づかないうちに俺の前はもう完勃ちになっていて、視界は欲情の色に染まりきっている。善の指が腰から背中をなぞりあげた。感じすぎて生理的な涙が滲む。
後ろを満たしていたものが突然ずるりと引き抜かれた。中途半端に高められた内側が咽ぶように疼く。
「ひぁっ……ん、んっ、やだっ、善……」
「はいはい。入れてほしいのはわかったけどさ」
よいしょ、と暢気な掛け声と共に、善は上体を起こした。
黒いジャケットを脱ぎ、ベッドの下に投げ捨てる。シャツの裾を意味ありげに数センチたくし上げると、形の良い臍が覗いた。それにジーンズの釦とベルト。
「俺、千亜貴みたいに絶倫じゃないからさぁ」
ベルトに手をかけ、かちゃかちゃ言わせながら勿体ぶるようにバックルを外す。続いて釦、ジッパーも下ろすと、ゆっくり下着ごとジーンズをずらした。流線のタトゥーと、まだなんの反応も見せていない善のそれが露わになる。
陰毛も金色なのは何度見ても感心してしまうが、今はそれどころじゃない。俺の後頭部に善の手が回され、下腹部に引き寄せられる。
鼻先に擦りつけられるくらい間近になった、まだ柔らかい性器。シャワーを浴びたばかりのようで、善の素肌からは石鹸の匂いがしている。
首を反らして見上げると、善は微笑んだ。一見優しげだが目の奥が酷く冷たい。俺の髪を撫で、低く掠れた声で言う。
「ちゃんと勃ったらハメてやるよ」
頑張って。
どうでもよさげにそう言いながら見下ろされ、からっぽの後ろがもう、頭がおかしくなりそうなくらい疼いて。
息を荒げながらそれにむしゃぶりついた。
必死さを嗤う声と、気まぐれに首筋を擽る指に悶えながら、俺は犯してもらうための凶器を育てた。
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