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#3-4

濡れた髪も乾かさないまま、腰にタオルだけ巻いた格好で、俺は当然のように善をベッドに引きずりこむ。 さっきまで善が寝ていたベッドは僅かに乱れていた。 「チャーハン美味しかったから、サービスしたげるね」 やたらご機嫌な善の手によって、早々にタオルは取り去られた。まだ勃ってもいない俺のものに手のひらでゆるゆる触れながら、善は俺の首筋にキスを落とす。 善のそれは単なる戯れではなくて、やわらかな唇によるれっきとした愛撫だ。舌まで這わされると、擽ったさを性感が完全に凌駕する。 たったこれだけで鳴かされるなんてプライド的には面白くない。でも気持ちいいものは仕方ないから、俺は甘んじて瞼を閉じる。 「千亜貴ってさ、こっちは使ったことないの?」 鎖骨をなぞるように啄んでいきながら、こっち、と言うところで善は俺の前をきゅっと握った。芯をもち始めていたそれが過敏に快感を伝えてくる。 その質問は、抱く側に回ったことがあるか、という意味だろうか。 ない、と答えたら善は「ふーん。もったいない」と目を細めた。 「タチしてみたくない? 今度使ってみようよ」 「……なに、お前そっちがいいの?」 「俺は別にどっちでもいいんだけどぉ」 小首を傾げて悪戯っぽく笑う。 「千亜貴をこっち側からぐちゃぐちゃにしてあげるのも楽しそうだなあ、と思って」 青い瞳が嗜虐的に煌めくのを直視してしまって、不覚にも俺の腹の奥はずくん、と疼いた。 俺が善を抱くって話のはずなのに、善の表情はどう見たって、大人しく抱かれる側のものじゃない。だから俺の身体も、突っ込まれる側の反応をしてしまう。 ちぐはぐさに脳が混乱しそうになる。 そもそも、そっち側に立つという発想を、俺はずいぶん前に放棄したのだ。 中学校で性教育を受ける頃には、自分はゲイだとすでに自覚していたから。初恋相手のクラスメイトに、抱かれたいという欲望をはっきり抱いていたから。 ストレートになりたくて女と付き合ってみたこともある。そういう時代もあった、俺にも。でも無理だった。 それ以来、誰かを抱くという行為は、イメージすら持ったことがない。 「まあいいや」と善は暢気な調子で言うと、俺のそこから手を離し、代わりに胸に触れてきた。薄い皮膚に電流のような刺激が走って、不意打ちのようなそれに腰が揺れる。 「してみたくなったら言ってね。どっちがどっちって決める必要ないんだから。俺が両方よくしてあげる」 弧を描いた淡い色の唇が、かたくなった乳首をやわやわと食む。焦れったくなってきたところで突然、歯を立てられて。高い声と共に大きく身体を跳ねさせてしまい、くすくす笑われた。 俺の悦ぶことは知り尽くしている、と言わんばかりの顔。 ムカつくが、でも。 気持ちいいものは仕方ない、のだ。

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