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#4-7

あのときのことを善は覚えているのだろうか。 シーツを握りしめながら、俺は考える。 見合ったのは時間にしてほんの数秒だった。当時俺のことを認識していなかった善が覚えているとは思い難い。放課後のトイレは、善にとってはたぶん、日常の一部だったのだろうから。 今も鮮明に思い出せる、深い深い落とし穴を飲み込んだような無表情。それは俺に救いを求めてなんかいなかった。ただすべてに失望しているように見えた。 「なに考えてんの?」 「……ッ、あ!」 低く掠れた声が降ってきて、一際奥に突き入れられたものを、俺の中が強く締めつけた。 腰を掴んでいた手の片方が前に回されて、下腹部を圧迫してくる。中と外の両側から前立腺を潰されるような感覚に、頭の芯を電流が駆け抜ける。 「ずいぶん余裕だね。足りない?」 言いながら善は、俺の腰をさらに高く上げさせると、抜けるギリギリまで引いてから一気に最奥まで貫くのを数回繰り返した。肉どうしがぶつかる音。ベッドのスプリングが甲高く鳴った。 切っ先で奥を苛められて、愉悦が逃げ場なく蓄積されていく。腹の中が熱くて、膝がガクガク震えだす。 「う……、あ、あっ、それ……っ」 「んー? これ好き?」 「すき、っ、あ、あー……!」 追い詰めるようにしつこく嬲られるのが、支配されている感じを増長させて、たまらない。俺は突っ伏した姿勢のまま、ほとんど呻くように喘いだ。 「優しくしてあげようと思ったけど、ドMには余計なお世話だったねぇ」 乾いた声で笑い、俺の両手をシーツから剥がすと、背中でひとまとめにして掴んだ。支えを失った俺は枕に顔を埋めた格好になる。その頭を上からさらに押さえつけられて、呼吸を奪われる。 「ん、んっ、うぅ、っ」 酸素を求めて首を振って暴れる俺を、善は気まぐれに放しては再び枕に押しつけた。子供が虫をいたぶって遊んでいるみたいだ。そのあいだも犯されている媚肉は、息が苦しくなるのに比例して、猛ったものをきつく締めつけた。 腰がぞわぞわする。閉じた目に生理的な涙が滲む。 やがて呼吸も拘束されていた両手も解放されると、立てていた膝から力が抜けて、俺はベッドにぺったりと潰れた。唇の端から零れた唾液が枕に染みをつくる。 背中に善が覆いかぶさってくると、汗ばんだ肌が触れ合って、不思議と少し落ち着いた。 でも、すぐに気づかされる。それが解放ではなくて、次の蹂躙の準備だったことに。 善の長い指が、ひた、と俺の首筋に触れた。こんな行為の真っ最中だというのに、それは信じられないくらい冷たくて、背が粟立った。 うなじのほうから触れたそれは、するりと滑って、まるで細い蛇のように。俺の首に絡みつく、親指と人差し指の股のところがちょうど、顎の下のカーブに沿わされて。 善は俺の耳元に顔を寄せてきた。上半身が隙間なく重ねられ、身体はいつになく密着していた。 指とは比較にならない熱を帯びた舌に、耳殻をねっとり舐めあげられ、そのまま口腔内に含まれる。 抱きしめられるような姿勢のまま耳を食まれていると、だんだん思考が働かなくなってきた。背骨のあたりからとろけていきそうな心地よさに浸って、俺は淡い喘ぎを絶えず漏らす。塞がれた耳を舌が這いまわる音が頭蓋骨の内側に響く。 仕上げとばかりに俺の濡れた耳に息を吹きかけてから。 善はぞっとするほど艶っぽい声で囁いた。 「このまま殺せるね、簡単に」

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