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#4-8
同時に冷たい指に力が込められる。
反射的に見開いた目の端に、金糸の髪が煌めく。
首を握られたせいで顎が僅かに上向いて、ひゅっと喉が鳴る。
苦しくはなかった。
さっきまでと違ったし、前にほかの男に首を絞められたときとも違っていた。
息はできる。圧迫されて窮屈ではあるが、吸うのも吐くのも自由にできた。締め上げられているのは気道ではないらしい。
どくん、どくん、と自分の脈が、押さえられたところから伝わってくる。
苦しくないのに、徐々に頭の中に霞がかかって、自分の身体の境界がよくわからなくなってくる。
ふわふわとした変な感じ、ゆりかごの中にでもいるような、あたたかいプールの中でゆっくり沈んでいるみたいな。
は、と魚みたいに口を開けば、やっぱり息はできて。でも何かが明らかに堰き止められている。たぶん血が。脳にいってない。
「あはは……ナカ、すっごい締まってきた」
善の声が聞こえた。ものすごく遠いすぐそこから。笑ったときの腹筋の震えも腰に伝わった。
胎内を埋めているものがずるりと引き出される。内襞と脳の神経が直結したみたいに、その感触をあまりにも強烈に感じた。すぐにまた貫かれて、背が仰け反る。塞がれた喉から変な音がする。
「怖くないから、気持ちよくなることだけ考えてろよ。得意でしょ?」
呪いのように響く言葉に、身体が勝手に服従して。これは気持ちいいことなんだ、って理解しようとする。
ふわふわする頭と。
俺の体温に馴染みだした善の指。
目の前に白く星が散る。
俺の中で何かがぶちっと切れる。
切断される。
頭の芯が痺れて、どろりと滲む視界の中、思考が自由を失った。
きもちいい。
俺は今、善に殺されている。
殺されながら犯されている。
濡れそぼった孔が必死で善の性器にしゃぶりついて、ぐちゅぐちゅと下品な水音にまみれて、奥をブチ抜かれて、爪がシーツを掻いて、善が笑う、意識が朦朧としてきて、悦楽だけがどんどん加速して、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。
全身が激しく痙攣した。真っ白な渦に叩き込まれるみたいな感覚があった。胎底に到達している善の熱を食いちぎるくらい締めつけて、堕ちた。融けた、ような気もした。
真空の中に投げ出されたようで、その瞬間が、永遠にも思えた。
シーツから浮いてぴんと張り詰めていた爪先が、やがて落ちる。関節を繋いでいる糸が切れて全身ばらばらになってしまいそうだった。
首に絡みついていた指が外される。急に拡がった気道に酸素のかたまりが流れこんできて、咽せた。
肺がひっくり返りそうなほど咳き込む俺に、善がくすくす笑いながら触れてくる。
いつものセックスではありえないほど優しく髪を撫でられて。
「上手にイけたねぇ、千亜貴。いい子」
さっきまで握り潰していた俺の喉に善は指を這わせ、顎を持ち上げると、唇を合わせてきた。
後ろ向きに捻った首の内側に、咳き込んだあとの違和感がまだ残っている。全力疾走した直後のような、頭がくらくらする感じも。
しばらくのあいだ、善はそのまま俺の唇をあやすように啄んでいた。そうされていると、高められた身体は少しずつ落ち着いてくるような気がしたが、しかし。
脱力しきった身体を繋がったままひっくり返され、下肢に手を伸ばされて新事実を知る。
俺のそこはぐしょぐしょに淫液にまみれていて、シーツが相当悲惨なことになっているだろうと容易に想像できて、しかし、萎えていなかった。つまりどうやら射精していなかった。
首を絞められて、中だけで極めたのだ。それもおびただしい量の蜜を垂れ流しながら。
愕然とする俺の中には、まだ熱いままの善がいる。
善は指にたっぷり掬った透明な粘液を見せつけるようにしながら、これも珍しく、楽しげに笑った。
「コレどうする、優しく抜いてやろうか? それともおかわりしてみる? 次はメスイキ一回じゃ済まさないけど」
まだ壮絶な絶頂の余韻さえ抜けきれていない俺は。
善の言葉に初めて恐怖に近いものを感じながら、震える喉をごく、と鳴らした。
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