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#5-4
気づいたらホテルにいた。
シャワーも浴びずに抱きすくめられたから、どうにか言いくるめて順番にバスルームを使って。どこか現実のことと思えずぼんやりしながらも俺は、ちゃんと後ろの準備を済ませて。
山瀬は俺にとっては数少ない、というかある意味、唯一の友達で。
俺のことを好きだという、その気持ちを無下にするようなこと、するべきじゃない。確かに頭の一方ではそう思っているのに、もう一方では全然、ヤる気で。
ただそれでも、後悔するだろうな、という気は漠然としていた。
で、後悔が目に見えているセックスなんかほとんど初めてだったから、少し興奮してさえいた。
最低だな。
ああ、マジで最低だ、と思いながら。
薄いバスローブ一枚でベッドの上。懸命に舌を吸ってくる山瀬に応えていた。
「たちばな」と譫言のように呼ばれて、大きな手で触れられる。
焦れた手つきだった。がっつかれるのはあまり好きじゃないはずなのに、ぎらついた目で見つめられたら背筋がぞくぞくして、俺からも山瀬の身体に指や舌を這わせる。
ジム通いしていただけあって、脱ぐと思いのほか、がっしりした身体つきをしていた。高校時代は野球部だったと言っていたな。ずいぶん一緒にいたが、裸を見るのは初めてだった。
ちょっと舐めただけで山瀬の前は痛そうなくらいパンパンに張りつめて、一回抜いてやろうかって言ったら、首を横に振った。「いれたい」と上擦った声。開いた脚を抱え上げられる。
山瀬の肩に俺の脚が乗ってる。おかしな眺めだった。
ホテルに置いてあったローションは男同士で使うのに不向きのタイプだったが、まあ、大した障害にはならなかった。
――ああ、そういえば。
向かい合ったまま挿入される瞬間、思う。
好きだと言われたのに、なにも返事をしていないな。
薄いラテックス越しに山瀬の熱を感じる。あー内臓どうし擦り合わせちゃったらさすがにもう友達には戻れねえのかな? なあどう思う、って訊きたくなったけれど口からは動物的な声しか出なかった。
山瀬のそれは体格に見合ったサイズをしていて、最初はちょっと苦しかったけれど、圧迫感がだんだんよくなってきて。余すところなく奥まで突かれるのがたまらなくて喘いでいたら、それまでどこか泣きそうな顔をしていた山瀬が、ふ、と表情を崩した。
「橘、エッチ好きなんだな。可愛い」
普段ならそんな言葉、言われたところでなんとも思わないし、「そうだよ」と即答できるくらいなのに。相手と状況と、つまり、シチュエーションが悪かった。なんだか無性に恥ずかしくなって、俺は息を詰まらせた。
「……っ、そ……そんなん、言うなよ……」
「なんで? 俺、好きだよ。そういうの素直な奴」
山瀬のこめかみから滴った汗が、俺の鎖骨のあたりに落ちる。熱っぽい瞳が揺らめいて俺の挙動を見つめている。居心地悪いような、むず痒いような視線だった。普通の恋人同士のセックスみたいだ。
「たちばな、可愛い」
山瀬は何度もそう言った。何度もキスされた。惚れられてるんだなあ、とそのたび思った。
身体の下で安っぽいスプリングがぎしぎし鳴っている。
大学の頃、べろべろになるまで飲んだあと歩いて山瀬のアパートまで一緒に帰る、その明け方の空とか。
つい何日か前、昼飯を食ったあとで通り雨に見舞われたときの、びしょ濡れになりながら子供のようにはしゃいでいた山瀬の顔とか。
猫みたいに鳴かされながら、そんなのばっかり俺は思い出して。
行為が終わるのすら待たず、鉛色の後悔が顔を覗かせていた。
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