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#6-5

かたかたかた、とDVDプレイヤーが時折音をたてる。延々と巻き戻しを続ける機械を無視して、善は額をすり寄せてくる。 「もっかいキスしていい?」 「……勝手にしろよ」 笑みの形に目を細めた善が、軽く食むだけのキスを再び寄越した。 こいつといると感覚が麻痺してくる。自分がだいぶまともな人間みたいな気がしてくる。 重なったところの体温は似通っていて、俺は宇宙人と指先を合わせるあの映画を思い出した。善が借りてきたタイトルの中にあったせいだろうな。 「でもさあ」数ミリの隙間で善が言葉を紡ぎだす。 「あの主人公、欲求不満だったのかなって思わない?」 「そんなシーンあったっけ」 「警察官とダンスするとことか、そういう雰囲気だったし。あと、刑務所の檻あけて囚人の男と寝そべってたり」 「お前、やっぱ、そっち方面だけ鋭いんだな」 「あは……そうみたい」 前に女の子の家で「ジョーズ」観たときもさぁ……などとのんびり話しだしたから、遮るように唇を押しつけた。なんとなく、そうしたくなって。 俺たちのあいだにムードとかマナーとかは存在しないとしても、この距離で女の話は聞きたくなかった。 互いに唇をひらいて、濡れた粘膜どうしが触れたら、自然と舌先もぶつかった。ぬる、と入ってきて、歯列をなぞるようにしながら擽られる。小さく水音。 そのまましばらく舌を絡めるキスをしていた。やがて離れて俺は、少し恍惚としたまま、昨日までよりもよく見える善の顔をまじまじと眺める。 形のいい額は前髪で隠れてしまったが、代わりになめらかなフェイスラインが露わになった。肌のきめ細やかさも映えている気がする。俺はゆるりと片腕を持ち上げて、耳の上あたりの短い金糸をつまんだ。 「いいんじゃねえの」 「え?」 「髪。こっちのほうが似合ってる」 というか。これだけ綺麗な顔してるんだから、そりゃ出したほうがいいよな、とか思う。根元まで金色なのがよくわかるのも、なんとなくいい。俺の真っ黒なそれとの違いが明確で。 人がせっかく褒めたというのに、善は目をまるくしてぱちぱち瞬いただけだった。その顔が小動物っぽく見えて思わず笑う。 俺に褒められたのがそんなに予想外だったか。本当に変な奴だ。 善に比べたら俺って全然、フツウだ。ははは。 なんだか無性に愉快になってきて、でも声に出して笑うというより、身体だけでめちゃくちゃに笑いたいような気分で。 どういうことかっていうとつまりまあ、この変な男と、なにもかも忘れてセックスしたい、って意味だ。 「あのさ、善」 善の手を掴んで、「これ」と言いながら、俺の下腹部に引き寄せる。まだ何の兆しもないそこに、善の手のひらをゆるく押しつけると、条件反射みたいに指先で探られた。 「お前に入れてみたいんだけど」 そう言ったら、善はまた少し目を見開いた。 なんとなくだ。特別そっち側に興味があるわけじゃない。入れられるのが好きだし。 ただ、ちょっと前に善にふっかけられたのを、ふと思い出して。 たぶん今の俺は、善の異質さに呑まれることで安心していたいんだ。頭の隅では妙に冷静にそう分析していた。 善はすぐに可笑しそうな顔になって、俺のそこを服の上からごそごそまさぐりながら、いつもの調子で「いいよぉ」と言った。 「千亜貴の童貞、俺が食べてあげるね」 善の赤い舌が先端だけ覗いて、上唇をちろりと舐めた。

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