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#6-8
「うあっ、あ、ッ、と……とま、止まれ……!」
「やぁ、だ」
膝立ちになった善が激しく腰を振る。
結論、善はネコ側に回っても俺に容赦なかった。
イっても抜かないまま、過敏になったそこをぐちゅぐちゅ擦られ続けて、俺の精液が泡立って酷い状態になっているのが見なくてもわかる。
善の中はずっと熱くて、やわらかいのに絡みついてくるみたいで、どこまでも奥へ引きずりこまれそうで怖いくらいだった。
オナホ使って責められたことはあるが、あんなのとぜんぜん違う。入り口はきゅうっと心地よく締めつけて、内側はしゃぶりついてくるように蠢いている。
「ねえ、どっちがイイ? そろそろ教えてよ」
「ぁ、だ、からっ、わかんね、ってぇ……!」
入れられるのと入れるの、どっちがイイか。しつこいくらい何回も訊かれ続けているが、本当にわからないんだからしょうがないだろう。
想像の百倍気持ちいいことは間違いない。後ろで得られる快感のような、溺れるほどの深さはない気がするが、性器にダイレクトに与えられるぶん、強くて鮮烈だった。ベクトルが違うんだから比べようがない。
「んー、そっかあ」
僅かに息を弾ませながら、善は片足だけ膝を立てた姿勢に変えた。上下の抽送が大きくなって、往復する内襞にずるずる擦られるのがたまらない。
「あぁ、っ……あっ、ん、ん……っ」
「ふふ……ちあき、女の子みたいな顔、してる。オトコ役なのに」
変なの、と囁く声が、砂糖を煮詰めたように甘い。善は腰をくねらせながら自分の前をゆるく扱いていた。それを下から見上げているこの状況。
抱かれているときよりはいくらか余裕があるせいで、つい善を観察してしまう。整った顔がとろりと蕩け、唇からは時折上擦った声を漏らしている。
その表情と声に俺は、悔しいことに、欲情、してしまっていた。
「んっ、ちあきの、中でびくびくしてる……かわいい」
「……ッあ、ぁ……、マジ、とまれって、……ふ、っ」
「だぁめ。ね、このままイってよ、もっかい」
言葉に合わせて後ろがきゅうっと締まったのは、わざとだろうか。とろとろの媚肉に吸いつかれて、本気でもっていかれそうなのをどうにか堪えた。
これじゃ、いつものセックスと同じだ。善にいいようにされて、何度もイかされて、追い詰められて。
別に、それが嫌ってわけじゃない。気持ちよければそれでいい、とも思う、けど。
俺にだって矜恃がないわけではない。
入れる側になっても善に好き勝手されて、鳴かされて絞りとられるというのは、さすがに情けないだろ。
俺のそんな、この期に及んでしがみついているしょうもないプライドみたいなものに、たぶん善は気づいていたのだろう。
「ちあき」
「え、……っ、あ」
不意に善は俺を呼んで、上体を寄せてきた。綺麗な顔が近づく。白い頬がいつになく紅潮していて、俺を見つめる潤んだ目が、伏せられて。
善のしっとり濡れた唇と、対照的に乾いた俺のそれが合わせられた。最初は触れるだけ、徐々に角度を変えて深く。
「……ぜ、ん、……っ」
キスしているあいだにも善はときどき腰を揺らめかせて、唇の端からお互い、浅い息を零した。善の片手が俺の頭に触れて、指先で擽るようにちょっと撫でた。
「……ちあき。我慢しなくていいよ」
びっくりするほど優しい声が降ってくる。ほんの数ミリ離れただけの唇が吐息に濡れる。
目の前に透き通った青い瞳。焦点が合わないせいで、その色がいっぱいに滲んで広がって見えた。
俺の黒髪を弄んでいた指に、今度は明確に頭を撫でられる。甘やかな手つきだった。そして続きを囁く。
「いまは、なんにも考えないで、きもちよくなっていいんだよ」
それは、俺を赦す言葉だった。
俺が心底望んでいるものを手ずから差し出すような言葉だった。
男とか女とか。
押し潰されそうな心地の中でも生きていかなきゃいけないこととか。
ぜんぶ忘れていいんだと。
あるべき形、求められる姿、そこに重なれない歪な自分の影、そういうものから目を逸らしてただ、自由でいていいんだと。
そう言われているような、残酷なほどの救済だった。
善じゃないみたいな声と仕草。子供のように頭を撫でられて、首を絞められているわけでもないのに俺は、急に息が苦しくなって。
視界が海になる。こみあげた涙で滲む。善の瞳に慈愛めいたものが浮かんで見える。繋がっている下半身のことさえ、いっとき忘れてしまった。
止めようと思う間もなく、俺の目からぼろぼろと零れだした涙を、善が唇と指で散らす。「いいこだね、千亜貴」そう言ってあやしながら頭を抱く。
「わかるよ。嫌なことばっかりだよねえ。つらいよねえ。ちあきはいいこだよ」
子守唄のように俺を宥めながら、頬をぴったりと寄せる。善にそんなふうに抱きしめられるのは初めてだった。
善の体温に心を落ち着かされている俺がいた。
張り裂けそうに胸が詰まる。
たぶん、本当にぜんぶ、わかられてしまっている。
即物的に気持ちよくなるコミュニケーションしか、俺たちのあいだにはこれまで存在しなかったし、必要ないと思っていた。のに。
「だいじょうぶ。俺が忘れさせてあげる」
「あ……あっ」
身体を密着させたまま、善が腰を浮かす。ずる、と引きずり出される刺激に背が震える。潤んだ視界に金色がちらついた。短くなっても変わらないその色の、浮世離れした美しさ。
咥えこまれているそこさえも、善の襞ひとつひとつに抱きしめられているような気がした。ありのままの自分が受け入れられていることに、くらくらするような多幸感が湧きあがる。それに溺れながら、俺は無意識のうちに手を伸ばした。善の背に縋りつく。
応えるように俺の耳を甘噛みしたあと、善は、優しい呪いのように吹き込んだ。
「ちあきのぜんぶ、俺が愛してあげるよ」
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