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#8-2

「……ほら、よく言うじゃん。イジメは見て見ぬふりしてる人もみんな加害者ですよー、って。そういうことだよ」 掴まれたままの髪をぐいぐいと何度か引っ張られ、そのたび痛みに顔が歪む。ぼやけた視界に善の肌の白さが際立った。 「俺を犯して笑ってた奴らも、知らん顔してた教師も、無関係に楽しく青春謳歌してたほかの奴らも全員さあ……できるんなら残らず殺したいんだよねえ」 「ん、む……っ」 再び俯かされ口に突っ込まれて、善の顔が見えなくなる。今度は喉奥まで容赦なく進入された。吐きそうになりながらもどうにか飲みこむ。いっぱいに開かされた唇の端から涎がだらだら零れる。 「三年間、毎日、妄想してたよ。皆殺しの。今でも時々する。でもまあ、現実じゃ難しいからさ……あのとき千亜貴と会ったのも、ヤったのも偶然だけど、あーちょうどいいからコイツで憂さ晴らししよー、って」 うさばらし、という響きがこびりつく耳を、善が撫でた。首筋、うなじへ滑って後頭部をさすり、また軽く髪を引っ張って口淫を催促する。 ずるずるとゆっくり引き出したものを、吸いつくようにしながらもう一度、今度は自分で奥へ迎え入れる。酸欠で目が回ってくる。善が満足げな息を漏らした。 「……でも、だんだん、かわいそーになってきちゃってさあ」 耳をいじられるのが擽ったくて、さっきまで咥えこまされていた後ろも疼いていて、今にも理性が瓦解しそうなくらいもどかしい中で、善の声に意識を繋ぎとめられている。「情が移ったっていうのかなあ」と善は溜め息まじりに言った。 「今までどんな人生送ってきたのか知らないけど……特進クラスだったし、たぶん千亜貴って、割と出来る子だったでしょ。なのに今、なんかヘンな会社勤めてるし。セックス以外の趣味も、ろくな人付き合いもなくて、毎日つまんなそーな顔してんのに、自分殺して健気にガンバっててさ」 「そんな子がさあ……イジメられて犯されて、ほかになーんにもできないからカラダ売って生きてきた俺みたいなやつに、唯一の生き甲斐、見出してくれてんの見てたらさ。笑えちゃって」 「カワイソーでカワイイから、捨てるのやめてあげよー、って」 「……っん、ぷは……っ」 唾液まみれになった性器を抜かれ、だるい感じのする顎を指先でさすられた。 呼吸の自由が戻って楽になるはずが、指はそのまま歯列を割って俺の舌を弄びはじめる。また涎が零れて、もう、ぐちゃぐちゃすぎて泣きたかった。 酷い顔をしているであろう俺に、善は、躊躇なくキスをしてきた。人差し指を俺の口に突っ込んだまま。舌を絡めとられながら、側面の敏感なところを指が小刻みになぞってくる。わけがわからないくらい感じてしまって腰が揺れる。 「俺、千亜貴のことすきだよ。すきじゃなかったら、とっくに予定通りポイしてるもん」 散々蹂躙してからやっと俺の舌を解放して、善は言った。のぼせたようにぐらつく頭で聞く。 「別に俺、セックス好きなわけじゃないけど、千亜貴とするのは楽しいし。素の俺って結構Sなのかなあ? いつも相手の性癖に合わせてたから自覚なかったけど、千亜貴いじめるのは、ちゃんとゾクゾクする」 ふざけんな、お前は真性のドSだろ。自覚がないなんて冗談だろう。そう言いたいがもはや言葉にならない。 善に引き寄せられるまま、その胸の中に抱きこまれて、後ろ手の拘束を外される。しわくちゃで見るも無惨な姿になったシャツをベッドの下に投げ、痺れた俺の手をさすりながら、歌うように善が囁く。 「ね、俺が飼ってあげる。仕事も辞めていいよ。ずーっとセックスのことだけ考えてるダメな生きものになって、俺が帰ってくるの、毎日家で待ってて? 大事にするよ。いくらでも抱いてあげる。そういう生活、したかったでしょ?」 片手で腰を抱えられ、もう片方が俺の後ろに触れる。どろどろにほぐれているのに、入ってきたのは指一本だけ。それが前立腺を執拗に引っ掻いて、確かに快感はあるのに、感じれば感じるほど物足りなさが募る。 がくがく揺れる腰が止まらない。大きく喘ぎながら善の肩に爪を立てる。 「あぁっ、はぁ……っ、や、も、やだ、や……っ」 「ふ……、可哀想な千亜貴。俺がずーっとかわいがってあげるから」 無意識のうちに反らせた胸に、ぬる、と熱いものが這う。かたくなった突起に唾液を絡めて吸いつかれ、さらに仰け反ってしまう。そこで感じると中が勝手に締まるから、またつらくなる。熱も質量も圧倒的に足りない。欲しくてたまらない。

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