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#8-3
善はおもむろに俺をベッドに横たえさせた。バカみたいに開いた脚のあいだに善がいて、愛玩動物に向けるような目で俺を見ている。
早く突っ込んでめちゃくちゃにしてほしくて、でも、無性にその目が嫌だった。
最中の善がいつもどこか冷めた目をしているのは、俺だけが望む行為だからだとわかっていた。善にとって俺とのセックスは仕事みたいなもので、俺を満足させることだけが目的だから。
それに比べたら、今のほうがずっと感情があった。熱っぽささえ感じさせる、けれど。
その目で抱かれるのが、どうしても嫌だと思った俺は、首を横に振った。
情けなく震えた声で「いやだ」と呟くと、善の目が少し細められた。
「ん? なあに、ちあき」
ごく、と喉を鳴らす。身体が熱くて、疼いて、それでも言わずにいられない。
「お、俺は……かわいそう、なんかじゃ、ない」
おかしいとか、まともじゃないとか、そんなふうに言われるなら開き直れた。でも、
「お前には、そんなこと、思われたくない……」
俺の絞り出した言葉に、善はすうっと表情を消した。
「なにそれ」
今まで聞いたことのないほど、低くて冷たい声。瞳からも温度が失せる。
仰向けに転がされた俺を見下ろす善は、明確にキレていた。飄々として、怒りなんて見せたことのない善が。
「俺のほうが可哀想だから?」
薄い唇が発する言葉は、尖った音をしていた。俺がはっとして「違う」と言うより先に、善は片方の膝を俺の股間に押しつけた。
腹の上で性器がきつく圧迫され、声が出ないほどの激痛とともに、そのまま潰される恐怖が襲う。痙攣する膝を掴んで持ち上げられるとさらに痛みが増して、でも逃げられなくて、俺はのたうちながら善の腕に爪を立てた。
ぐり、ぐり、と膝に圧をかけながら、善は氷柱の先のような目をぎらつかせる。
「自分のほうがマシだって、まだ思ってる? この見た目のせいで、どこ行っても異物扱いされ続けて。男にも女にも媚び売って這い上がってきた俺のほうが、落ちぶれた元優等生の千亜貴より惨めだって? バカじゃねえの。おんなじ底辺なんだよ。同情してやるだけ感謝しろよ」
ああ、怒っている。ちがうんだよ。痛みに息を荒げながら、俺は思う。
そういうんじゃ、なくて。
可哀想なんて言葉、すごく遠く感じるから。
だから嫌だと思ったったんだ。ペットを見るような目も、違和感しかなくて、お前にそんなふうに見てほしくなくて。
でもこんなこと言ったら、余計に怒らせてしまいそうだ。
善がやっとそこから膝を離してくれたときには、俺の爪も善の肩口にがっちりと食い込んでいた。
「はは……萎えてねえじゃん。本物だね、お前」
俺の垂れ流した先走りの粘液が糸をひく。善の言葉通り、痛めつけられたはずのそこは、硬度を失うことなく打ち震えていた。
善がふう、と息をひとつ吐いて、俺の両足を抱えあげる。
「底辺どうし、楽しくやろうよ。俺に飼われるのが嫌なら、セックスだけで生きていくやり方、教えてあげる。無理して社会に溶け込む必要なんかないよ。一緒になんにも考えなくていいところにいようよ」
後孔に熱い塊があてがわれ、一気に腰を押し進められる。欲しかったものを与えられたナカが悦んでぎゅうぎゅうに締めつける。奥まで暴かれたと思ったらすぐにギリギリまで退かれ、激しい抜き挿しに悲鳴じみた声が漏れた。
限界まで開かされた股関節が軋む。奥を突き上げられて、脳味噌を直接揺らされるような強い快楽。抉られる気持ちよさと、善の身体が熱いこと、それしかわからなくされていく。
理性を手放しかけている俺の耳元で、善は荒い息遣いの合間に言った。
「すきだよ、千亜貴」
最後の砦ががらがら崩れる。たったいま俺を抱いているこの男のこと以外、すべてが、世界から消える。
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