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#8-5

眠って、セックスして、少しだけ何か食べて、セックスして、また眠る。を何度か繰り返した。 遮光カーテンの向こうでどのくらい時間が経ったのか知らなかった。どこかに置きっぱなしだったスマホを善が持ってきてくれたときに、初めて曜日と時刻を確認した。 ルルちゃんちから帰ってきたのが水曜日、今は金曜日の夕方。水曜はさておき、二日は仕事を無断欠勤したことになる。 数時間前に二回ほど、チーフから着信が入っていた。昼過ぎに山瀬からメールも一件。読まずに削除して、ベッドから遠いところにスマホを放った。 「まだ痛い?」 新しいペットボトルを持ってきた善が、ベッドに座り俺の腰をさする。慣れているしタフなほうだと自負しているが、これだけヤり続けていたらさすがにあちこち痛んでくる。 「腰より股関節がヤバい……」 「あー、正常位しすぎた? ごめんね」 「あと喉」 「うん、ガラッガラだね、声。お水飲みな」 受け取ったペットボトルに素直に口をつける。常温のそれが今の喉には心地よかった。善が何か言いたげな顔でこっちを見ているので「なに」と言ったら、「なんでもないよ」と俺の頭を撫でた。 だるい身体を並んで横たえたまま、しばらく平和な時間が流れた。 他愛もない話を善が時々ぽつりと振ってくる。相槌を打つのも億劫な俺は、適当に唸ったり頷いたりしながら、ぼんやりと善の声を聞いていた。穏やかなものに戻った、低すぎず甘すぎもしない声。 こうやって過ごすのは悪くないな、と思った。仕事のこととか、日常生活のこととか、過りもしなかった。頭からその部分だけごっそり抜け落ちたみたいだった。 やがて善が「お風呂はいろっか」と言って。俺はまだ立ち上がるのも嫌だったけれど「洗ってあげるから」と丸め込まれて、一緒に風呂場へ向かった。だるいし痛いが立てなくはなかったから、抱きかかえられるような醜態は晒さずにすんだ。 風呂場の小さな窓からは、まだ暮れる前の空の明るさが差していた。 バスタブに湯を溜めながら、普段は使わない風呂椅子に座って、頭からケツの中まで全部、善に洗われた。善は終始楽しそうで、犬でも洗っている気分だったに違いない。 二人で入るには狭いバスタブに、後ろから抱え込まれる形で無理やり入る。 「千亜貴の髪、きれい」 いつだったかも言われた言葉を、善はまた口にした。濡れてぺたりと張りつく髪を指で梳いて。俺は急に落ち着かない気持ちになる。首を竦めて「普通だろ、別に」と呟く。 「真っ黒で真っ直ぐで、面白くもねえ」 「そこがいいんじゃん。そこがすきなんだよ」 「……あっそ」 善が腕を動かすたび、湯がちゃぷちゃぷ揺れた。入浴剤も何も入れていない、ただの透明な湯。善の白い肌は温まるとすぐに赤くなった。 「おい、そのへん触んな」 「えー、だって、痛いって言うから」 「要らねえって」 「なんで。またしたくなるから?」 「……そうだよ」 「ふーん。だったらやめない」 「やめろ、ってば」 愛撫というよりマッサージ的な手つきだったが、笑いながら腰や内腿を触ってくる善の手は結局、止まらなかった。 小窓の磨りガラスの外が暗くなってから、俺たちは風呂を出た。 善がどうしてもやりたがったので、これまた普段は使わないドライヤーで、髪を乾かさせてやる。タオルドライでじゅうぶんな長さなのに、善は俺の髪を丁寧に丁寧に根元から乾かしていった。心地よくて思わず寝落ちそうになり、笑われた。 微睡みの淵ギリギリのところで、触れるだけのキスをされる。 「……お前、自分のは乾かさねえのかよ」 「うん、切ってからドライヤー要らなくなった」 「俺だって要らねえっつうの」 「まあそう言わずに」 完璧に乾いてほこほこ温かくなった俺の髪にも、善は満足げにキスを落とした。

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