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#8-7

「はあっ……はーっ……ぁ……」 後ろだけで達して、感じたことのない場所で善を感じながら、上がりきった呼吸がしばらく元に戻らない。 いつもの善だったら、俺がぐったりしているのをむしろ好機とばかりに追い討ちをかけてくるところだ。でも今は、ぎゅっと抱きしめながら片手で頭を撫でられている。 こっ恥ずかしいことすんなと言いたい気持ちもあったが、余韻が深すぎて声にならないのと、その手の感触が心地いいと思ってしまったせいで、俺はしばらくじっと受け入れていた。 だが、ようやく少し落ち着いてきたと思ったところで、善が急に腰を突き上げてきたものだから、ひっくり返った声をあげてしまう。 「な、えっ、あ……っ!?」 「俺まだイってない」 「ちょっ……待っ、や、あっ」 上半身をしっかりホールドされたまま、さっきまでよりも少し強めに揺すられる。「がんばれ」と背中をさすられるが、熱がぶり返した身体にはそれさえも刺激になった。 「もーちょっと締めてくれないとイけないかなあ」 「うぅ、むり、無理ぃ……」 「イけるまで続けるけど、いいの?」 「よく、なっ……! あっ、あっ」 こんなの続けられたらどうにかなってしまう。もうなってるけど。後ろになけなしの力をいれて、善の動きに合わせて締めつけて。 「ん……きもちい……」 善がそう、低く呟くのが聞こえた、次の瞬間だった。 ――ぴんぽーん。 間の抜けたチャイム音が響き渡る。俺は思わず身をかたくしたが、善はちらっと視線を泳がせただけで、気にするそぶりもなく律動を続けていた。 「だ……誰か、きた……」 「しらなーい」 「んッ……あ、おいっ……」 焦ったふりをしてはみるが、正直言えば、俺だって構う気はなかった。こんな状態で出られるわけもないし。どうせ宗教の勧誘か何かだろうし、放っておけばすぐ帰る。そう思っていたのだけれど。 ――ぴんぽーん、ぴんぽーん。……ぴんぽーん。 続けざまに二回、少し間をあけて一回。脳天気な音が響くたび、意識を削がれる。 ずいぶんしつこい勧誘だな、と思いながら、逃避するように俺から善の唇に噛みついた。伸ばした舌の先を甘噛みされ、善の腔内に引きこまれながらじゅる、と吸われる。 重なった胸に重心を預け、もうすべてを善に委ねてしまおうと目を閉じて、 ――ぴんぽーん。 『たちばなさぁん』 女の声で名を呼ばれた気がして、ぎくっと肩が硬直した。 リビングにあるインターフォンのモニターから発せられたであろうその音は、遠い上にノイズ混じりで不明瞭ではあったが、聞き覚えのある声に聞こえた。 俺の顔が強張ったのを見てとったのだろう、善はたいそう不満げに眉を顰めていたが、繋がったままゆっくり俺ごと起き上がった。俺は少しの逡巡の後、ろくに力の入らない膝をなんとか立たせて、善のものを抜きベッドを降りる。 脚も腰もガクガクで、情けなく壁を伝いながら廊下に出る羽目になった。 リビングに辿り着いたタイミングで、何度目かのチャイムが鳴る。 『橘さーん、いますかぁ? 桜井ですぅ』 鳥肌の立つような声。玄関前に立つ、予想した通りの人物の姿が、壁の小さなモニターに映し出されている。 桜井里香。と、その後ろに、長岡知美の姿もあった。 なんでここに、という驚愕と、ほとんど反射的に感じたおぞましさで頭がいっぱいになる。家の場所なんてもちろん教えたことはない。勝手に住所を調べたんだろうか。信じがたい。もはやストーカーじゃねえか。 画面の中の桜井里香は、こちらの応答がないにも関わらず、鼻にかかった声で続けた。 『勝手に押しかけてごめんなさい、三日もお休みだったから心配でぇ』 『……里香さん、やっぱ帰りましょう。迷惑ですよ、アポも無しで……』 『えー、知美ちゃんも心配って言ってたじゃぁん。てゆうか、いないのかな? 橘さぁーん』 もう一度チャイムが鳴らされる。無神経な音に神経を逆撫でられる心地がした。巻かれた髪や白いブラウスを見るだけで、あの匂いが鼻先に蘇る。 いつの間にか善が後ろにいて、俺の肩に顎を乗せてきた。裸の腰あたりに腕を回してきながら「わー、バカっぽい女」と小さく言って笑う。 このまま居留守で乗り切ろう、と一旦は思ったが、放っておいたらまた来るのではないかと不安が過った。何度も来られてはかなわないし、居留守を使い続けるのも、社長やチーフに伝わったらと思うとばつが悪い。 咄嗟のことで、しかもセックスし通しで頭がバカになっていて、判断力が鈍っていたのかもしれない。逡巡の末、俺は汗ばんだ手でモニターの横の通話ボタンを押した。

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