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#10-5
善を押し倒した形で、ベッドの上。キスをしながらシャツの裾に手を入れる。しっとりした肌に手のひらを滑らせ、その体温を掬いとるように、ゆっくり撫であげていく。
脇腹のあたりから、薄い腹筋をなぞって、胸元へ。キスの合間に善が息を漏らす。指先で到達する先端はゆるく勃ちあがっていて、そっと擦るとツンと膨らんで存在感を増した。
「ん……」
善はとろりと目を開けていて、俺を見ている。それに気づいたとき、猛烈な気恥ずかしさが襲った。抱かれるより抱くほうが恥ずかしい。慣れの問題かもしれないけれど。
照明は落としたが、カーテンがないためだろうか、思いのほか月明かりが入ってきて、俺からも善の姿はよく見えた。
シャツをたくし上げ、淡い色をした乳首に唇を寄せてみる。ゆるく吸いつき、舌先で転がすようにしながら、もう片方を摘まんで弄る。善の脚がもぞ、と動く。
シャツを脱がせると、肌の白さが発光するように浮かびあがった。羨ましいくらい均整のとれた身体が俺の下で横たわっている。善はじっと俺を見上げながら手を伸ばしてきて、
「千亜貴も脱いで……」
そう言って服の裾をちょっと掴んだ。恐らく無意識なのだろうが、あざとい仕草だった。俺は無言でシャツを脱ぐ。
首に腕を回され、露わになった肌どうし抱き合う。密着した人肌というのはどうしてこんなに心地が好いんだろう。
「やさしくしなくていいからね」
「……乱暴なのがいいならそう言えよ」
囁かれて返事をすると、頬をすり寄せてきながら、善は言った。
「なんでもいい。千亜貴の好きにして」
俺の好きにする、ってのは、優しくするってことだ。少なくとも今は。
できるかどうかわからないけれど、できるだけ気持ちよくさせてやりたいし、なにも考えなくて済むようにさせてやりたかった。
そんなふうに思うのは、たぶん人生で初めてだった。男を抱こうっていうのがそもそも初めてではあるんだけど。
再び唇を合わせて、善のきらきらしたまつげを間近に見ながら、身体に触れていく。丁寧に、というか、慎重に。善の反応を逃したくない。
「ふ」
耳から首筋にかけてのあたりを、鼻先をうずめるようにして啄んだら、擽ったそうに身をよじった。
次はどうしよう、と考えながら、手本として思い返すのはどうしたって善の行為だ。善にされて気持ちよかったことを真似て善に施していく。こんなところまで、もう、善に塗り潰されてしまっている。
引き締まった腹部を唇で辿って、臍のくぼみに舌を入れる。
びく、と腰が跳ねたのに気をよくして、強めに吸いつくようにしながら内側を抉ると、善は「んーっ……」と何かに堪えるような声をあげて、俺の髪をぐしゃぐしゃに掴んだ。
ベルトのバックルに手をかけて、もたつきながらも外していく。善のそこがちゃんと熱くなっているのを衣服越しに確認する。
ジッパーを下ろして下着ごと少しずらすと、淡い下生えに紛れてタトゥーが覗いた。
指一本で覆えてしまうくらいの小さなそれ。読めない綴りの細いカリグラフィー。
「これ、なんて書いてあんの、善」
親指の腹でそっと触れながら訊ねる。前に訊いたときには答えてくれなかった。一緒に住み始めてすぐの頃だ。なんだかずいぶん昔のことのように感じる。
善の表情を窺ってみると、眉根を寄せていて、目が合うと逸らされた。やはり答えたくないらしい。
そうなると余計に、知りたい気持ちが抑えられなくなった。
言いたくないことを言わせたいわけではない。けれど、善なら、ほんとうに言いたくなければ、すっとぼけた答えくらい用意していそうな気がした。それでいいから聞きたい。
「なあ。教えて」
タトゥーの端から端まで、何度かくちづけて追い詰めると、善は目をうろうろ泳がせながら、きゅっと唇を噛んだ。そんな表情見るの、初めてだ。
やがて観念したように小さく唇をひらく。呟かれた言葉は「トゥオネラの白鳥」という、馴染みのない響きのものだった。
「とぅ……? なに、それ」
「……フィンランドの、神話。昔話みたいなもんだよ」
ぼそぼそと答える善は、やたら所在なさげな右手でシーツをいじっていた。
「母さんが、話してくれたの、それだけ覚えてて」
消え入りそうな声。この様子を見るに、言うのが嫌だというより、恥ずかしかったらしい。善に羞恥心があったのだということがもはや驚きだ。
仄かに朱の差した顔をまじまじ見つめていたら、
「……も、なんでもいいじゃん、はやく……」
堪えきれなくなったのか、片手で目元を覆い隠し、もう片方では俺の手をひっ掴んで自分の股間に押しつけた。
なぜか知らないが相当恥ずかしいようだ。それ以上追及するのはやめて、急かされるまま、熱くなったそこをまさぐる。
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