77 / 80

#10-7

そっち側がどうされたら気持ちいいのかはわかっているつもりだけれど、できるかどうかは別だ。イイとこ狙って当てるとか、あんま、できる気がしない。 とりあえず奥まで馴染ませるように腰を回して、小さく揺すってみる。 中が少し擦れるだけで、善のそこは俺にきゅんきゅん絡みついてきて、好き勝手に動いて突き上げてみたい欲求も生まれた。 でもそれ以上に、善がどんな顔でよがるのか知りたくて。ちゃんと気持ちよくさせたくて。一旦腰を引いて、いいところを探りながら小刻みに潜らせていく。 「はあ……あっ……」 「ん……ここ?」 善が声を漏らすポイントがある気がして、ゆっくり動きながら確かめる。指でいじったときの深さと合っている気がするし、ちょっとしこりになっていて、当たったときの感じが違う、ような、気がする。 タチって難しいな、全然わかんねえ。でも位置はそれで正解だったようで、ぐりぐり当て続けていると、善の脚がびくびく痙攣しだした。 「あ……、ぁ、あっ」 切れ切れに喘ぐ声が、次第に甘さを増していく。前のほうも萎えずに硬くなっているのを確認して、安堵と興奮が一緒くたになった。 善が、俺に抱かれている、という現実。頬を上気させて、喘いで、放り出された性器の先端を濡らしている。 その光景に……脳のキャパシティを軽く超えてしまいそうなくらい、欲情している俺がいた。 「あ、ん、んっ……ちあ、き……」 「うん」 合間に名前を呼んでくるのを可愛く思って、つい、甘やかすような返事をする。でも喘ぐ口元に手を当てているのが、やはりこれもあざとい仕草に見えて、なんとなくイラッとした。から、その手を掴んで枕の横に押しつける。 無意識なんだろうがそこには、ほかの男に抱かれ慣れている善、が垣間見えてしまっていた。 俺には媚びなくていいのに。俺は、ほかの奴らと違うのに。そうだろ? ちょっとむしゃくしゃしたのをぶつけるみたいに、動きを少し強くしてみる。腰をぐっと押しつけるようにして奥のほうを突くと、電気でも流れたみたいにびくっと身体を跳ねさせた。 「あっ……はぁっ、あっ」 綺麗な顔を歪めて鳴く善が、もう片方の手で俺に触れてくる。縋るような触れ方に応えて、その手も同じように握った。汗ばんだ白い身体を、標本のようにシーツに縫い止める。 「は……、善、きもちい? ちゃんとできてる……?」 「うん、っ、きもちい……っ」 善の開きっぱなしの唇から零れる言葉に、ほっとしたのも束の間。 「ちあきと、してんの、うれしい……死にそお」 浮かされたような声と言葉に、不覚にも、胸を衝かれた。 ふくれあがって止まらない愛しさのまま、善に身体を寄せる。 両手を握ったまま、のしかかるような姿勢になって、上体をぴったり合わせた。善の火照った肌が心地好くて、繋がっているところも、食いちぎりそうなくらいに俺を締めつけていて。 もっと、と思う。 もっと深く重なりたい。もっと、もっと、ぜんぶ混ざりたい。 「……っあ、あー……っ」 密着したままで腰を揺すると、善が声をひときわ高く掠れさせた。動きにくいが、いいところに当たるらしい。 小刻みに中を擦りあげるのを続けると、善が長い脚を俺の腰に絡めてきた。すごい密着度。伝わる体温に、欲情が加速させられていく。 「あっ……ちあき、千亜貴っ……」 切羽詰まったような声で呼ばれて、顔を覗き込んだ。涙の膜で潤みきった瞳は、ほんとうに海をビー玉サイズに縮めたみたいだ。それを俺に向けながら、 「千亜貴、俺のこと、いやじゃない?」 消え入りそうにそう言った。なにかに怯えるような、微かな声の震え。俺は胎内を愛撫する動きを止める。 「……なんで。嫌じゃないよ」 答えると、善の顔がぐしゃ、と歪んだ。形の良い眉のあいだに皺が寄り、唇は泣き出しそうに引きつる。 「どうした、善」 あやすように囁きながら、今にも雫をこぼしそうな目尻にそっと指先をすべらせると、善は俺の首の後ろに手を回してしがみついてきた。熱い身体が細かく震えだして。 「俺、おれ……、今でも千亜貴のこと、ざまあみろって思ってるよ。人生つまずいて、俺なんかに目ぇつけられて、かわいそう、もっと不幸になればいいのにって思ってるよ。俺といたら不幸になるよ。それでも千亜貴、いやじゃないの」 涙で滲んだ、絶望に片足突っ込んで絞り出したような声だった。 両手で俺に強く強くしがみついた善は、かたかた震えながら、まるで断罪を待ってでもいるかのように、荒くなった息を殺している。 善の言葉を、丁寧に反芻しながらゆっくり、ゆっくり脳に染みこませて、俺は。 「嫌じゃない」 善と自分に言い聞かせるように、出した答えを口にしていく。 俺にとってお前がなんなのか。お前とどうなりたいのか。シンプルなことだ、わかってしまえば。ほんの一言で済む。 「いいよ、ちょっとくらい不幸でも」 やわらかな髪を撫でる。善の噛み殺す嗚咽が伝わる。 お前なしの幸せに、もう俺は、価値を見出さない。

ともだちにシェアしよう!