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#10-8
善が俺に抱かれたがったことの、その意味を思う。
この部屋で――恐らく善にとって聖域のような場所である、この家の中で。
たぶん、すごく大事なものを捧げられた。俺の思い上がりじゃなければ。
善がそれを自覚しているのかどうかは、また別の話ではあるけれども。
「あ、あっ、あっ、んっ」
善の鳴く声と、ぱちゅ、ぱちゅって水音。抱え上げた善の脚が視界の端で揺れている。
俺の下手くそな責めに、善のそこは健気に応えていて、突き入れるたびにぎゅうっと締めつけてくる。何度も持っていかれそうになりながら、とろとろに熱くなった中を抉る。
俺も善も、滴るくらい汗をかいていて、触れるところがいちいち溶けそうに気持ちがよかった。
「奥っ、おくがいい、ちあき、奥にほしい」
浅いところのほうが明らかによさそうに喘ぐくせに、そこばかり責めていると頑なに奥、とせがまれる。でも気持ちはちょっとわかる。腰押しつけて深く入れられるの、嬉しいよな。愛されてる、とか思っちゃって。
「はあっ……ちあき、ちあ、き」
意味を成さない喘ぎに混じって、善は何度も俺の名前を呼んだ。こっちが照れるくらい。
なんとか善を先にイかせてやりたくて、突き上げながら前も激しく扱く。
善のは蜜をだらだら垂れ流していて、ぐちゅぐちゅと派手な音が鳴っていた。舐めて咥えて思いっきり啜ってやりたくなる。その代わりに善の望む通り、貫いた奥に先端をぐいぐい押し当ててやる。
「あ、イく、ちあき、いく、いく……っ」
「……ッ、う……!」
善の中が大きくうねって、根元までしっかり銜えこまれていた俺のが、内襞ぜんぶで搾るように締めあげられた。予期せぬ強すぎる刺激をやり過ごすことができずに、一番深いところで精を吐き出してしまう。
ほとんど同時に善もイった。背を反らせて、しなやかな腹筋の上に濃い白濁がぶちまけられる。
「は、っあ、……はぁ……っ」
身体も、中もびくびく震わせながら、善はしばらく余韻に喘いでいた。
甘くとろけた胎内が俺の出したものでいっぱいになっていると思うと、自覚したばかりの征服欲が頭をもたげた。数日間溜めこまれていたぶん、結構な量が出た気がする。
なんとなく、抜くのがもったいなく感じて。まだ名残のように硬度を保っているもので、数センチ程度のゆるい抽送を何度か繰り返した。
イったばかりで過敏になっている内側をぐちゅぐちゅ擦られて、善はまた声を漏らす。いつもより上擦った掠れ声。すごく耳に心地好い。もっと聞いていたい。
でも、そうしていられたのは短い時間だった。
惚けた目をしていた善が、いきなりむくっと身体を起こす。その拍子に善の中から俺のがあっさり抜けた。どろっ、て精液も一緒に零れて、シーツを酷く汚したけれど善が気にする様子はない。は、は、と荒い呼吸のまま、正面から抱きつかれ、唇に噛みつかれる。
「っ、ん……」
汗まみれでぎゅうっと抱きしめられて、抱き返して――視界が反転する。
ぐしょぐしょに湿ったシーツの感触が、背中に。
あっという間に押し倒されていた。たった今まで見下ろしていた善の顔が、仄かな月光を受けて影になっている。
「ちあき」
どこか夢を見ているような目で、善は俺を見つめた。恍惚と焦燥が入り交じったような瞳に、ぞくっとする。その青の中に閉じ込められてしまいそうになる。
俺が何か言うより早く、善は俺の両脚を割ってそのあいだに身体を入れてきた。
「……ッあ、おい……っ」
さっきまで善に入れていたものには目もくれずに、その手は俺の後ろへ伸びる。乾いたところに指先をねじ込まれかけて、思わず腰が引けた。
善は熱に浮かされた顔のまま、自分の腹部へと手を滑らせる。俺に抱かれて出した白濁を掬いとり、それを潤滑剤として、俺の後孔に指を潜りこませた。
「ぅあっ……! ま、待っ、……ッ」
長い指が性急な動きで中を暴いていく。達したばかりだというのに、後ろで感じる快楽の芽が、否応なしに俺の身体を昂ぶらせる。
「あ、待てって、おいっ……あ、善……!」
いきなり翻弄されるのが辛くて、抵抗じみた言葉を漏らしてみせるけれど、俺のそこは正直だった。
ずっと欲しかった、待ち侘びたものが与えられる予感に、あっさり弛んでひくついているのが自分でわかる。
善の指。気持ちいい。善にされていると思うだけで、快感が倍以上に膨らんでしまう。
「ちあきぃ」
ちょっと舌っ足らずに呼ばれるだけで、腹の奥がどうしようもなく疼いた。必死な声。計算ずくの艶っぽい声よりずっと、俺の本能を刺激する。愛おしくてたまらなくなる。
二本の指で俺の中を拓いていきながら、喰らいつくようなキスをしてくる。余裕なんて微塵もなしにお互いを貪りあう、そんなキスだ。酸欠で頭がくらくらして。加減できずに噛みあう舌がひりひりして。
ぼたっ、と。
唇が離れて息を継ぐのと同時に、頬に熱いものが一滴、降ってきた。
閉じていた目をひらく。
善が泣いていた。ぼたぼたぼた、と、立て続けに落ちてくる涙。
「もっとほしい」
綺麗な顔を、台無しなくらい汗と涙でぐちゃぐちゃにして、善が言う。子供みたいに単純な欲求。
「千亜貴が欲しいよお」
それを聞いて、もう、だめだった。
いつだって、俺が欲しがるだけ善は満たしてくれた。ねだればいくらでも快楽をくれて、俺はそれで満足していたはずだった。それなのに。
善が俺を欲しがっている。この男に求められている。たったそれだけの事実が、今までの比じゃないくらいに、俺を満たす。いっぱいになる。
気が遠くなるほどの充足を得て、俺は、……はじけた。頭ん中で何かが。
「……っ、……――ッ!!」
善の熱いものに、ひといきに最奥まで貫かれる。声も出せないままに、壮絶な絶頂にぶん殴られる。
脳味噌がひっくり返るみたいな、全身のあらゆる回路をぜんぶブチ切られるみたいな、暴力的な気持ちよさ、に怖くなって。今度は俺が善にしがみつく。爪を立てる。善は止まらない。すぐに抽送を始めた。
「……あぁ、っ! あ、あッ、や、あっ」
「ちあき」
「あッ、あっ、あ! ッう、ぁ……っ」
「ちあき、ねえ、千亜貴っ……」
俺が善にしていたように、いちばん奥、深いところを抉られて。激情を叩きつけられるみたいな抱き方。もはや捕食だ。骨までしゃぶり尽くされるような。
「ちあき……、ぜんぶほしい、ぜんぜん、たりない……っ」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、こんなにも臆面なく欲しがられて、歓びを感じてしまう俺はどうしたらいい。もう戻れない。だって満たされているのは身体じゃない。
「あ……! あっ、あ、ッ」
「ちあき、だいすき、……ちあき」
抱きしめられる。俺の息が詰まるくらい。触れた肌からも、吐息からも、痛いくらいに伝わる。伝わってしまう。
さびしい、くるしい、いとしい、氾濫して渦巻いている感情の、そのぜんぶを受け入れる。
善を抱きしめ返す。せいいっぱい、強く。強く。
俺は、善にこうしてやるために生まれてきたのかもしれない、……そんな馬鹿げた、大それた妄想を、揺さぶられる快楽の片隅によぎらせながら。
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