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第一章・8
丞はすでに就職している。
実家通いなので、貯金もしている。
その貯金を全て使い切るくらいの勢いで、丞は准と出かけた。
准は相変わらず、ラフな普段着だ。
「まずは、美容院へ行こう」
「それなら、方向が逆じゃ……」
准はいつも、小学生の頃から通っている床屋のおじさんに髪を切ってもらっている。
だが丞は、准を自分の使うヘアサロンに連れて来た。
「こいつを、今風のイケてる髪形にしてやってください」
准の髪は、さらさらの栗色を肩ほどまで伸ばしている。
スタッフはヘアカタログを持ってきて、あれやこれやと准に勧め始めた。
「こちらの髪形は、お似合いですよ」
「兄さん、お手入れとか面倒くさいよ。揃えるだけじゃ、ダメ?」
縋るような眼の准に、丞は心を鬼にした。
「准、秀斗と一緒にいたいなら、イメチェンするんだ!」
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