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第四章・2
「兄さん、ちょっといい?」
准はその晩、兄の部屋を訪れた。
デスクについて、パソコンに向かっている丞。
振り向いた彼に、准は恐る恐る尋ねた。
「お見合いするって、ホント?」
「ああ。一応、会うだけな」
「何で!? 一応、なんて。それなら、今すぐ断ればいいじゃん!」
「そうはいかないよ」
父親の、そして、先方の顔を潰すわけにはいかない。
「大人の事情、ってものが、世間にはあるんだよ。そのうち、准にも解る」
「解りたくもないよ、そんなもの!」
丞の部屋を飛び出し、准は自分のベッドに身を投げ出した。
涙が流れる。
(なんで? なんで僕、泣いてるの?)
解ってる。
兄さんが、知らない人のものになる。
それが寂しくて辛くて悲しくて、たまらないんだ。
准は泣きながら、そのまま眠ってしまった。
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