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第四章・13
「ですが、兄に子どもができました。今、妊娠5ヶ月で、奥さんは実家に戻っておられます」
おめでとうございます、というのも話の流れ上不自然だったので、丞は沈黙を守った。
「妻の不在に夫は……、兄はまた、僕を求めてくるようになりました」
でも、このままじゃダメなんです、と茜は声を振り絞った。
「このままだと、兄も義姉も、生まれてくる赤ちゃんも。誰もが不幸になります。だから僕は、絶対に結婚しなくてはならないんです」
壮絶だ、と感じた。
しかしそれは、我が身にも降りかかりかねないことなのだ。
丞は、以前に准とセックスをした際に避妊していなかった自分を悔いた。
一歩間違えれば、准にも、この目の前の可哀想なΩと同じ思いを味わわせることになったのだ。
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