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第五章・3

「秀斗、准を頼む」 「えっ」 「あいつは不安定で甘えん坊でわがままで……、とにかく手を焼くとは思う」  今日も、お前まで巻き込んで、俺の見合いを邪魔しに来たしな、と丞は笑った。 「いえ、そんなこと」  あるけど、と秀斗は心の中で思った。  本当に、丞の言う通り、不安定で甘えん坊でわがままなのだ、准は。  だけど、とも思う。  そんな一面も、准の魅力だ、と。  そんな准だから、好きになったんだ、と。  そしてそれは、この目の前の兄も同じだったのだと知らされた。 「手を焼くことも含めて、准を愛する喜びなんだと解って欲しい」 「はい」  少し、丞はホッとしたようだった。  指を組み、コーヒーを飲み、時折笑いながら、よく喋った。  秀斗は、そんな丞を目に焼き付けた。  大事な愛する弟を、恋人でもある弟を、他の男に託した大人の姿を、忘れるまいと焼き付けた。

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