72 / 172
第五章・4
准は茜に引き留められて、カフェに入っていた。
紅茶を頼んだ茜の前には、フルーツパフェをぱくつく准の姿が。
ただその食べ方には、やや自棄食いの気配があった。
「話って、なんですか」
「僕のことを、知ってもらおうと思って」
知る必要なんかない、と准は思ったが、それは言葉に出さずにいた。
この人には、何かある。
ただの綺麗な人じゃない。
その陰にひそむ、悲しみが見える。
同じΩの波長を、准は直感でとらえていた。
そんな准に、茜は先ほど丞に語った話をした。
血のつながった兄との、恋。
堕ろさせられた、赤ちゃん。
愛する兄の結婚と、そのパートナーの妊娠。
全て聞き終わる頃には、准はパフェを食べる手を止めていた。
真剣に、聞き入っていた。
ともだちにシェアしよう!