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第五章・8

 ディナーの準備に入るため、間もなくレストランは一時閉店する。  そのぎりぎりの時刻に、茜は帰って来た。 「待っててくれると思ってました」 「すみません。准は、どうでしたか?」  茜は、少し表情を曇らせた。 「僕の事情は話しましたが、解ってくれたかどうか。申し訳ありません」  いいえ、と丞は軽く頭を下げた。 「こちらこそ、ご迷惑をおかけしてしまって。後で、叱っておきます」  それには、慌てて手を横に振る茜だ。 「准くんを、叱らないでやってください。多感な年頃なんですから」  僕が、急ぎ過ぎました、と茜は頬に手を当てた。 「もう少し、時間をかけてあなたに近づいていけばよかった」 「俺が言ったことは、そのまま有効ですよ」 「え?」 「結婚を前提として、お付き合いしてください。お願いします」 「梅宮さん」  何か言いかけた茜の唇を遮るように、丞は立ち上がった。  そして、茜に寄り添いレストランを後にした。

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