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第七章・3
「ごめんね、秀斗。今、エッチしたい気分じゃないんだ」
病院へ行って、強い薬に加えて注射までされたという准。
そんな彼に、秀斗は柔らかく微笑んだ。
「准がしたくないなら、いいよ」
「キスだけなら、してあげる」
ちゅっ、と准は秀斗に唇を合わせた。
その悪戯っぽい仕草に、秀斗は温かな気持ちになった。
「何だか、付き合い始めた頃に戻ったみたいだ」
「そう?」
「うん。准、なかなか許してくれなかったもんね」
そうだったかなぁ、と准はころんとベッドに横になった。
シーツに散った髪を撫でると、秀斗は立ち上がった。
「今日は疲れただろ? 俺、もう帰るよ」
「来てくれて、ありがと」
嬉しかった、と頬を染める准に、秀斗は新鮮な魅力を感じていた。
小悪魔みたいに誘ってくる准も好きだけど、こんな風にやんわり拒む彼も好きだ。
准は、玄関まで送ってくれた。
秀斗は、もうすっかり日の長くなった夕暮れを歩いて行った。
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