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第七章・4

 季節はめぐり、初夏を迎えた。  丞は、相変わらず残業や接待で夜が遅い。 「兄さん、まだ帰ってこない」  時計は、22時を回っている。  准は丞のベッドに腰かけて、足をぶらぶらさせていた。  そこへ、ふとドアノブの音が。 「兄さん!」 「何だ、准。まだ起きてたのか」  早く寝ないと、明日寝坊するぞ、と鼻をつまむ。  こんな兄弟の触れ合いはいつもどおりなのに、丞は見合いをしてからこっち、一度も准を抱いていなかった。 「ね、兄さん。お願いがあるんだけど」 「言ってみろ」  夏服が欲しい、と准は丞の腕にすがった。 「また、ショッピングデートしようよ。兄さんと僕とで!」 「仕方のない奴だな」  丞はバッグから財布を出した。

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