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第七章・6

 准は、思わず叫んでいた。 「兄さんと結婚したって、海野さんは幸せにならないよ! 他に好きな人がいるんだから!」 「そうかもしれない。だがな、恋愛と結婚は別なんだよ、准」 「また訳の分かんないこと言ってる!」  叫んだ途端、准の頬にぽろりと大粒の涙が零れた。  あれ?  涙?  泣くつもりなんて、なかったのに。 「もう……、もう! 兄さんの、バカぁ!」  大きな音を立ててドアを閉め、准は丞の部屋から飛び出して行った。 「ああ……」  差し出した手の万札が、くたんと頭を下げる。 「金に頼ったのは、マズかったかな」  一緒に服を選ぶくらいなら、いいのかもしれない。  別に、寝るわけじゃないんだから。 「いや、ダメだ」  もう二度と、准を恋しがってはいけないんだ、俺は。  唇を噛み、丞はうなだれた。

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