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第七章・9
確かに秀斗を誘っておきながら、見るのは兄のことばかりでは申し訳ない。
「うん、解った。じゃあ、兄さんたちがホテルから出たら、秀斗の好きな所へ行くよ」
「ありがとう、准」
ところが丞たちは、ホテルを出なかった。
エレベーターに乗って、上へ昇ってしまったのだ!
「嘘……。兄さん、やっぱり海野さんとエッチするつもりなんだ……」
がっくりと肩を落とす准に、秀斗は寄り添った。
「准、落ち着いて。俺が付いてるから」
しかし准の落ち込みようは、尋常ではなかった。
はらはらと涙を零し、眼を真っ赤にしている。
今度は、秀斗がタクシーを拾った。
「准、今日はもう帰ろう。家まで送ってやるから」
「う……、うぅ、う……」
運転手に行先を告げると、秀斗は准の肩を抱いた。
優しく撫でさすり、ハンカチで溢れる涙をぬぐってやった。
「うぅ、う。兄さん……。う、うぅ……」
「准、しっかりして」
怒ったり、泣いたり。
最近の准は、感情の起伏が激しいようだ。
(俺が守ってやらなきゃ)
准の手をしっかりと握り、秀斗は決意を新たにしていた。
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