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第八章・5

 夜、比較的早くに丞は帰宅した。  玄関で、父と一緒になるくらい、早かった。 「今夜は早いな、丞」 「うん。准が、心配で」 「病院へ連れて行く、と母さんが言ってたが」  そんな会話をしながら、二人は廊下を進んだ。 「あれ?」  キッチンに、夕食の準備が整っていない。  しん、として静かだ。  代わりに、リビングの明かりが灯っている。  そこから、母の声がする。 「どうした、母さん」 「あ、お父さん。丞」  心なしか、眼が赤い母。  丞は、嫌な予感がした。 「母さん、准の体、悪いの?」 「体は健康そのものなんだけど……」  そこで、初めて准が口を開いた 「兄さん、僕、赤ちゃんができたみたいなんだ」

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