116 / 172
第八章・9
「准、俺だ」
ドアの向こうから、兄さん、と声がした。
細く開く、ドア。
隙間から覗く准は、眼を真っ赤に泣きはらしていた。
「入るぞ」
ドアを開け、丞は准の部屋へ入った。
途端に、准が抱きついて来た。
抱きついて、わんわん泣いた。
その場にしゃがみ込み、丞は泣くに任せていた。
ショックだっただろう。
悲しかっただろう。
Ωにとって、愛する者の子を宿すことは、歓びだ。
だのに、それが受け入れられないなんて。
誰も祝福してくれないなんて。
せめて、俺は。
「准、俺の赤ちゃん迎えてくれて、ありがとう」
「秀斗の赤ちゃんかもしれないよ」
「それでも、ありがとう」
「兄さん……」
泣き疲れて眠ってしまった准をベッドに運び、丞は行く先を考えた。
しかし、靄がかかって何も見えなかった。
ともだちにシェアしよう!