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第八章・10

 その晩、丞は秀斗を佐々木外科の駐車場へ呼び出した。  秀斗宅は、外科の敷地内にある。  電話では、済ませられない要件だ。  家にお邪魔する形ではなく、二人きりで密談できる状況を丞は選んだ。 「悪いな。寝てたか?」 「いえ、勉強してましたから大丈夫です」  さすがだな、と丞はうなずいた。 「志望校、通りそうか?」 「今ちょっと、厳しいです。夏休みに挽回しないと」  それより、と秀斗は丞に探るような眼を向けた。 「こんな時刻に、何の御用ですか? まさか、僕の進路を心配しに来たわけじゃないでしょう?」 「うん」  非常に言いにくいことを、丞は唇から吐いた。 「准が、妊娠した」

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